電池には必要な電解液とは?
これまでは電池を理解するのに必ず必要となる、基礎的な電流、電圧、電力について話を進めてきた。電池による放電は自由電子をマイナス帯電体(負極)からプラス帯電体(正極)へ導体(導線)を通って移動させる。その時、同時にプラス電荷(プラスイオン)を負極から正極へ移動させる必要がある。その時両極間に必要なのが電解液¹⁾ということになる。では電解液とは一体どういう性質のものか、塩化ナトリウムを事例として説明していこう。
では順に説明していく。図12に塩化ナトリウムNaCl²⁾を水の中に入れて出来るナトリウムイオンNa⁺と塩素イオンCl⁻の事例を示した。空気中では塩化ナトリウムはイオン結合して安定な電子殻を形成し電気的には中性な分子として存在している。ところが、水の中に入れると水分子H₂Oの極性により、簡単にNa⁺イオンとCl⁻イオンに分離する。一般に図12に示すように最外殻にある価電子を失った原子はプラスに帯電して陽イオン(プラスイオン)になり、自由電子を最外殻に取り込んだ原子はマイナスに帯電して陰イオン(マイナスイオン)となる。これを電離するといい、塩化ナトリウムがイオンとして溶け込んだ水溶液をプラスイオンとマイナスイオンが混在する電解液という。これが電池の両極間には必要な必須要素なのである。
ところで、塩化ナトリウムを水の中に入れると、何故電離するのか?電離した両イオンNa⁺、Cl⁻は、何故再度イオン結合しないのか?とすぐさま疑問が浮かぶ。その訳を説明したのが図13である。
出典☛「物理図録」@数研出版;P84
「電気の基本としくみがよくわかる本」福田務@ナツメ社;P20 より加筆
出典☛「温泉の科学」@やませみ より加筆
水分子は酸素に電子が16個存在し、水素原子は1個の電子しか持てない。つまり、電気的に中性であっても図に示したように極性を形成する分子(極性分子)となる。NaClが原子として水の中に入れられると、イオン結合よりも電気的に強い極性分子である水により電離される。電離されたNa⁺イオン、Cl⁻イオンは、図13に示したようにそれぞれ水の極性分子に囲まれて、プラス電荷、マイナス電荷が守られ、電離状態が続くという訳だ。
図13右には電離されたNa⁺イオン、Cl⁻イオンが存在する電解液の様子を示した。この電解液は均一に分布していると考えられ、電気的には中性を示す。ただし、プラスイオン、マイナスイオンが自由に移動できるという訳だ。ではこの電解液中に2種類の導体(金属板)を入れて、プラス極、マイナス極を形成する。そして、両極に乾電池を繋いで電圧をかけると一体どうなるのか?
その様子を図14に示した。Cl⁻イオンは水素の正の極性よりも強い、電池のプラス電荷により正極に引き寄せられる。そして正極でCl原子となり、自由電子を放出して乾電池に流れ込む。一方、負極では水素の負の極性よりも強い、電池のマイナス電荷によりNa⁺イオンは負極に引き寄せられ、自由電子を獲得してNa原子となる。結果的にはイオンの移動が自由電子を移動させて正極から負極への電流を発生させている。この時、イオンが電荷の運び手(キャリア)となっている。ちなみに、純粋な水であれば絶縁体で電気を通さない。ところが自然界には純粋な水は存在せず、雨水でも地下水、湧き水でも、様々なイオン物質が含まれており、今回の電解液のように通電してしまうのである。@2021.9.14記
出典☛「電気の基本としくみがよくわかる本」福田務@ナツメ社;P20-21 より加筆
《専門用語の解説および参考文献》
1)電解液 (Electrolyte Solution) ☛イオン性物質を水などの極性溶媒に溶解させて作った、電気伝導性を有する溶液をさす。電解質溶液ともいい、イオン溶液とも呼ばれることもある。狭義には、電池や電気メッキ槽にいれる電解質水溶液を指す。@Wikipedia
2)塩化ナトリウム☛ナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)が結合した化合物である。塩化ナトリウムは、地球上のほとんどの生物に必要な必須ミネラルであるナトリウムの元になる。体内の水分調節などの働きがあり、生きていくためには重要な成分だ。塩とは、しょっぱくて白い結晶である。原料は海水や岩塩で、食用に精製したものを特に食塩という。塩の主成分は塩化ナトリウムである。しかし、塩=塩化ナトリウムというわけではない。他にも、微量のカリウムやカルシウムなどが含まれているからである。@ことくらべ
3)極性分子(Polar molecule)☛正電荷(原子核が担う)と負電荷(電子が担う)の重心が一致しない分子のこと。この正負電荷の各重心が一致しないことにより、この分子には電気双極子が存在する。@Wikipedia