水素イオンが行き交うニッケル水素電池!
ニッケル水素電池の正式名称はニッケル金属水酸化物電池Ni-MH¹⁾と呼ばれる高性能電池である。図22に示したように、鉛蓄電池に比べて3~4倍の電池性能を持つ。公称電圧は1.2Vとなる。ニッケル水素電池の概要を図25に示した。正極に水酸化ニッケル、負極には後で説明する水素吸蔵合金、電解液は水酸化カリウムを用いている。主にエネルギー貯蔵装置として人工衛星やハッブル宇宙望遠鏡などの宇宙探査用に使用された²⁾。クルマでは性能・安全性の観点から1997年初代のトヨタHVプリウス、1999年初代のホンダHVインサイトに初めて使われた。
重要なポイントは負極に使われる水素吸蔵合金²⁾である。図25に示したように、放電時は水素吸蔵合金から水素イオンを放出し、充電時には水素吸蔵合金が水素イオンを吸収するという原理である。あたかも水素イオンの往復により放電・充電機構が成り立っていると見えるため、ニッケル水素電池はロッキングチェア型とかシーソー型とか言われている。その充放電のしくみをもう少し詳しく説明していこう。
出典☛「トコトンやさしい電気自動車の本」廣田幸嗣@日刊工業新聞社;p79 より加筆
果たして、その化学反応とは?
先ず、放電のしくみから説明していこう。図26に放電時のしくみのイメージ図と化学反応式を示した。外部回路のスイッチが入ると負極に貯まった自由電子が外部回路を通って正極に向かう。同時に、MHから電解液中に水素イオンH⁺が放出され、電解液中の水酸化物イオンOH⁻と反応して水H₂Oになり電解液は希釈される。一方、正極では水酸化ニッケルであるオキシ水酸化ニッケルNiOOHが水H₂Oが触媒反応で電離した水素イオン、自由電子を受け取り、水酸化ニッケルⅡNi(OH)₂になって放電時の化学反応が進む。したがって、図25のように水素イオンが直接電解液の中を移動するのではなく、水が生成されたり、分解されたりして水素イオンを運んでいるということである。
出典☛「ニッケル水素電池の充放電反応」@川崎重工HP より加筆
次に充電のしくみを同じように説明していこう。図27に充電時のしくみのイメージ図と化学反応式を示した。今回は正極から説明していく。外部回路からの充電が始まると、Ni(OH)₂は触媒反応で自由電子e⁻を放出し、正極から外部回路(充電器)へと移動していく。一方、Ni(OH)₂内部ではNiOOHとH⁺に電離されており、このH⁺と電荷液中のOH⁻がH₂Oを生成して電解液を希釈する。負極では充電器から放出された自由電子e⁻が負極の吸蔵合金に吸収されていく。同時に、水から電離した水素イオンH⁺と取り込んで水素原子Hとして合金内に吸蔵される。以上のように、充電においても水素イオンが水となって正極から負極に運ばれていることがわかる。@2021.10.25記
出典☛「ニッケル水素電池の充放電反応」@川崎重工HP より加筆
《専門用語の解説および参考文献》
1)Ni-MH☛MHはMetal Hydride(金属水酸化物)の略
2)水素吸蔵合金☛金属が水素を取り込む現象は古くから知られていた。例えば、酸性の溶液内の鋼が急激に割れてしまうことがあるが、これは溶液中の水素イオンが鋼中に侵入し、鋼を脆化させることに起因する(水素脆化)。このような現象を積極的に水素貯蔵に用いる研究は、1960年代のアメリカ・オークリッジ国立研究所の J.J.Reilly らによって始められた。彼は現在の水素吸蔵合金の基礎となっているマグネシウム基合金やバナジウム基合金が水素吸蔵放出を行うことを実験により証明した。@Wikipedia