「昨日までに説明してきた3つのHVを思い浮かべながら、何故HVが燃費がいいのかということを考えていきたい。そこで、まず燃費・効率だけを議論するためのGVモデル、HVモデルというものを考えていきたい。まず10話で話をした図1-14の正味燃料消費率等高線を思い出してほしい。燃費・効率を考える時には、重要なマップになると話したよね。」
「ああ、もちろん覚えている。渦巻き曲線が何故できるのか、最小燃費領域が中速高負荷域にできることなど理解したつもりだ。」
「今純くんが言ったことが、本当に重要となる。そして、燃料消費率f(gr/kWh)と正味熱効率ηeの関係も覚えている?」
「たしか、反比例関係にあったよね。」
「HVの基本原理は、昨日話をしたHV機構(トランスミッション)により、通常走行ではなかなか使えない最小燃費領域付近をできるだけ高い頻度で使用して、エンジン運転してモーター(発電機)を回し、2次電池に充電することだ。そのエンジン高熱効率で充電した電力によりモーターを駆動させるため、結果的には燃費がいいクルマが出来上がる。これがHVの基本原理だ。これを頭に入れて、GV、HVの燃費(効率)モデルを考えていこう。
純くんはWell-to-Wheel効率²²⁾という考え方を聞いたことあるかな?」
「いや、知らないと思う。」
出典☛「電気自動車が一番わかる」石川憲二@技術評論社;p25 より加筆
「では説明していこう。図3-7にWell-to-Wheel効率とTank-to-Wheel効率の違いを説明している。クルマの燃費(効率)を考える時、Tank-to-Wheelのケースを思い浮かべる。つまり 、クルマの燃料タンクからタイヤを駆動するまでの燃費である。一方Well-to-Wheel
の場合では、石油精製(油田)➡タンカーによる輸送時に発生するCO2も考慮している。
つまり、燃費∝CO2発生量であるから、Tank-to-WheelでのCO2発生量は、燃料タンクに燃料が入っている状態から、走行時にどれだけCO2を排出するかということを議論する。したがって、EVであればCO2発生量はゼロとなる。これはこの先地球温暖化を議論しようとすればおかしな話で、そこでWell-to-WheelのCO2発生量でGV、HV、EVを比較議論するということになるんだ。
図3-7の模式図において、全体のWell-to-Wheel効率=ηT、Well-to-Tank効率=ηT1、Tank-to-Wheel効率=ηT2とすると、
Well-to-Wheel効率ηT=Well-to-Wheel効率ηTI×Tank-to-Wheel効率ηT2
ここで、Tank-to-Wheel効率ηT2は
Tank-to-Wheel効率ηT2=(エンジン正味熱効率ηe)×(変速機などの機械効率≒0.80)
エンジン出力後、クラッチ➡変速機➡減速機➡デフ➡ドライブシャフトなどを介してホイールに伝達される。各機械効率は95%以上なので合わせると約80%程度になるということだ。たとえばエンジン効率ηeが15~30%であれば、Tank-to-Wheel効率ηT2は12~24%になる。一方、Well-to-Tank効率ηT1は石油精製効率90%、輸送効率98%と考えると、
Well-to-Wheel効率ηTI=0.90×0.98=0.882
ということになる。まあ、1割しか落ちないと考えたんだね。」
「思い出してきたよ。Tank-to-WheelのCO2はゼロだから、EVはCO2ゼロとCMで言っていた。でも電力を得るには、Well-to-TankのCO2を発生させているよね。」
「その通り。ただ、GV、HVの燃費議論ではWell-to-TankのCO2はすべて同じと考えているから、Tank-to-Wheel効率ηT2だけで進めたいと思っている。後半のEVを含めたところでは、Well-to-Wheelの効率ηT、CO2を取り上げて比較しようと考えているので、楽しみにしていてほしい。」
ここで一休みをして、HVの燃費を議論するための簡単なモデル化の話に進むことにした。@2018.12.13記、2019.7.26、2019.12.15修正
《参考文献および専門用語の解説》
22)Well-to-Wheel は、走行時のCO2 を考えるTank-to-Wheel に加えて、燃料をタンクに入れるまでのCO2の排出量(これをWell-to-Tankという)をも考えることである。例えば、油田から原油を採掘して、それをガソリンや軽油に精製する時に排出されるCO2 を走行時のCO2 に加えて考えるものである。電気自動車であれば、発電して、その電気を電池にためその電気で走行した時のCO2の排出量である。燃料電池車であれば、水素を製造して、その水素で走行した時のCO2 の排出量である。@例えば、「電気自動車が一番わかる」石川憲二@技術評論社;p25