「さて午前中に話をした図3-3のハイブリッドは駆動方法により、いくつかのタイプに分類される¹⁰⁾。ただし、このクルマ討議に必要な分け方で十分なので、議論は十分できるのでトランスミッション構造から分類される3つのHV方式¹¹⁾を紹介しよう。
HVというのはエンジンとモーターを如何に繋げ、そして減速して如何にホイールに伝達するのか、これが最も重要なんだ。図3-3で言えば、ハイブリッドトランスミッションの部分だね。これがHV機構の最大ポイントであり、技術の差別化ができる点だ。そのため、従来のトランスミッション技術が大いに活用される。ここでは概略を説明するけれど、純くんは自分で詳しく勉強してほしいな。
このトランスミッション技術を使って、3種類のHV方式が実用化されている:
➊シリーズ・パラレルHV方式☛図3-1
➋パラレルHV方式☛図3-2
➌シリーズHV方式☛図3-3
純くんが言っていたプリウスは➊のシリーズ・パラレル方式、フィットHVは➋のパラレル方式、そしてノートe-POWERは➌のシリーズHV方式となる。➌はロナ―ポルシェミクステ車と考え方は同じだね。」
「なるほど、一口HVと言っても“繋ぎ方”によって方式が違うんだね。でもHVの肝が”トランスミッション技術”ということは初めて知らなかったよ。」
出典☛「トコトンやさしい電気自動車の本」廣田幸嗣@日刊工業新聞社;p47 より加筆
「では図3-4に示したシリーズ・パラレルHV方式から簡単に説明するよ。この方式に代表例がプリウスに使われているというか、トヨタHVの全機種に使われているTHS-Ⅱ¹²⁾方式だ。モーターが駆動用、発電用と2つあり、インバーター(図示は2カ所にあるが、1か所で制御)で制御されている。
機械・電気出力の流れは、次のようになる:
1)EV走行(➡):2次電池¹³⁾☛駆動モーターM1☛変速機☛ホイール
2)ハイブリッド走行(➡+➡):駆動モーターM1☛変速機、およびエンジン☛変速機により複合された出力が動力分割機構を介してホイール
3)エンジン走行(➡):エンジン☛変速機☛ホイール
トヨタTHS-Ⅱの場合、変速機・クラッチの動力分割機構の部分には、ATで多用されている遊星ギア¹⁴⁾セットを2組使用している。また図示の2つのインバーターは、インバーターユニットとしてまとめられている。すべてがPCU¹⁵⁾からの指示により、インバーターでエンジン、モーターを駆動を制御しているため、電動CVTとも言われている。」
「決して部品として電動CVTがある訳じゃないんだ。初め聞いた時は、何でそう呼ばれているのか、分からなかったよ。」
「また坂道、ブレーキ作動時にはホイール駆動で駆動用モーターM1を回して発電してエネルギー回生(➡)を行っている。動力分割機構にある遊星ギアセットの動き¹⁶⁾を理解すると、エンジンとモーターがうまく連動していることが理解できるよ。」
「一度勉強してみるよ。」
出典☛「トコトンやさしい電気自動車の本」廣田幸嗣@日刊工業新聞社;p47 より加筆
「では次に図3-5に示したパラレルHV方式を説明しよう。この方式では一つのモーターを上手く使って、EV走行(➡)、ハイブリッド走行(➡+➡)、エンジン走行(➡)を行っている。この際用いられるのが変速機とクラッチになる。そして同じく回生はこの駆動モーターMを使って行われる。これから分かるように、一つのモーターで駆動と回生(➡)を同時に行うことはできない。
例えばホンダi-DCD¹⁷⁾の場合では、減速機とクラッチにDCT¹⁸⁾、モーターMの減速機に遊星ギアセットを1組を採用している。一般のDCTでは奇数段、偶数段に対するインプットシャフトのそれぞれのカウンターシャフトに出力してファイナルギア¹⁹⁾に繋げている。それに対してi-DCDの場合では1本のカウンターシャフトでファイナルギア、ホイールに繋げている。その結果、小型車のフィットに搭載できたと説明されている。
当初は変速機に複雑なDCTを、それも小型車のフィットによく使ったものだと思った。結果的には、やはり販売開始からDCT制御のところでリコールが多発したね。やはり、設計は昔からSimple is bestでないといけないということかな。」
「ところで、BSG²⁰⁾はパラレル方式だよね。」
「そうだね。クラッチ無しのスタータージェネレーターでモーターアシスト、エネルギー回生もできる。最近ドイツ車に採用され始めたね。ただし、出力が10-15kW程度であるため、省燃費効果が5-10%程度と小さい。これからの燃費を30-50%下げようとしている議論には入らないので、私はHVの分類から除外して話を進めたいと思っている。」
出典☛「トコトンやさしい電気自動車の本」廣田幸嗣@日刊工業新聞社;p47 より加筆
「最後に図3-6に示したシリーズHV方式は、これまでの2つの方式と大きく異なり、ホイール駆動は最終的に駆動モーターM1ですべて行われる。2次電池容量が足りている時は2次電池により駆動モーターM1を回す(➡)。ただし、エネルギー回生もこの駆動モーターM1で行う(➡)。電池容量が足りない時は、エンジンで発電用モーターM2を駆動し充電する(➡)。
例えばノートe-POWERは、1.2Lの小型エンジンにEVリーフの電動ユニットをそのまま搭載しているね。ただし、車両価格の点からリチウムイオン電池の容量はリーフの1/20と小さい。シリーズHVだから大きな容量はいらないと思うけどね。このHVは予想を大きく裏切って、2018年の乗用車売上NO.1となった。ただし、実燃費の方は19-20㎞/Lとアクア24㎞/L、プリウス25㎞/Lに対して低く、不評の声も上がっているようだ。そして、最近になって、ホンダ社が次期フィットには1モーターのi-DCDから、2モーターのi-MMD²¹⁾方式に変えるとの開発方針が出された。やはり、1モーターでは燃費を稼ぐのに限界があることと、日産のシリーズHVが好評であることが大きな要因であろうと言われている。
また別の機会に詳しく話すが、以上が3つのHVの概要説明だ。ここからの議論では、燃費・CO2排出量に焦点を絞っているので、これだけの知識で十分だと思う。」明日はからは、燃費の基本からHVを考えていこうと思っている。@2018.12.12記、2019.7.25、2019.12.14修正
《参考文献および専門用語の解説》
10)例えば、MotorFan illustrated vol.67「ハイブリッド再定義」@三栄書房;p41
11)「トコトンやさしい電気自動車の本」廣田幸嗣@日刊工業新聞社;p47
12)THS-Ⅱ☛Toyota Hybrid System-ⅡというトヨタHV方式の商品名の略
13)2次電池☛蓄電池、充電式電池ともいい、一回限りではなく充電を行うことにより繰り
返し使用することが出来る電池(化学電池)のこと@Wikipedia
14)遊星ギア☛例えば、MotorFan illustrated vol.47「AT」@三栄書房;p35
15)PCU☛Power Control Unit の略。
16)例えば、MotorFan illustrated vol.84「トランスミッション」@三栄書房;p76
17)i-DCD☛intelligent Dual-Clutch Driveの商品名の略。
18)DCT☛Dual Clutch Transmissionの略。二つのクラッチ板に交互に繋げることにより、奇数段、偶数段のカムシャフトを駆動して、それに繫がるギアセット、カウンターシャフトにて減速を行う。交互に繋げる制御は、油圧電子制御で行われる。欧州車のMTを電子制御した感覚に似ているが、1速から7速までの変速は約3-4秒で行われる早業である。
19)ファイナルギア☛最終減速ギヤ。トランスミッションで変速されたエンジン回転は、デファレンシャルギヤの外周に取り付けられたこのギヤで最終的に減速されて、タイヤに伝わるため、こう呼ばれる。
20)BSG☛Belt-driven Starter Generatorの略で、スターターとジェネレーターを兼ねるモーター。高い出力が必要なため、12VバッテリーのほかにBSG専用の48Vバッテリーを必要とする。マイクロHVとも言われる。
21)i-MMD☛Intelligent Multi-Mode Driveの略。ホンダ社が2013年にアコードHVに搭載した2モータ式のハイブリッドシステム。シリーズHVに近く、そのため大きなモーター、電池容量を必要とし、そのため高価格設定となりがちである。