「さて、図2-1で説明したガソリンの有害排気ガスCO、HC、NOxNOxを如何に浄化するのかというのが課題となる。そこで登場するのが、三元触媒という訳だ。」
「僕は前から触媒は訳の分からない物質という認識なんだ。学校では特定の化学反応の反応速度を速める物質で、自身は反応の前後で変化しないもの⁵⁾と習ったけれど、全くわかっていない。」
「そうだよね。ではその点も含めてゆっくり説明しよう。まず三元触媒の一般的な構造を図2-2に示した。上側には構造部品で、下側には触媒部の拡大写真を載せている。」
「まず三元触媒は、セラミック製で内部が細かいハニカム構造⁶⁾である触媒担体⁷⁾がベースとなる。その内部にウォッシュコート法⁸⁾で触媒成分が塗られている。触媒成分とは、プラチナPt(白金)、ロジウムRh、パラジウムPdという貴金属のことだ。これらは原子番号がそれぞれNO.78、45、46というように、気体原子、分子と比較すると非常に大きな原子構造を持っている。ここがポイントだ。つまり、3つの触媒金属の原子は、排気ガスのような気体に比べれば非常に大きく、当然広い表面積(ここでは原子構造の一番外側の軌道面積をいう)を持っているということだ。したがって、排気有害成分が触媒金属の表面に引き寄せられるんだね。その結果、非常に広い表面上に三元成分を原子レベルに分解して表面に吸着できてまう。たとえば、CO、HC、NOxを触媒金属の表面上に、原子レベルでそれぞれC、O、H、Nに分解して吸着できるんだね。これにより酸化反応、還元反応をしやすくしているんだ。これが触媒の重要な機能だ。」
「なるほど、触媒は原子レベルにバラバラに分解して新たに再結合しやすくさせる働きということか?やっと触媒の意味が分かったよ。」
出典☛「自動車用ガソリンエンジン」中島泰夫@山海堂;p103 より加筆
「この三元触媒に図2-1に示した浄化前の排気ガスを通すと、どうなるだろうかね?空燃比A/Fを変えて、触媒後の有害成分量を測定することで触媒の浄化率を調べてみると、事例として図2-3のような結果⁹⁾が得られる。横軸に空燃比A/F、縦軸に三元触媒による各ガスの浄化率を表して、CO、HC、NOxの浄化率を示している。理論空燃比14.7近辺でO2センサーの電圧信号が1⇔0Vの変化をしており、この0.97<λ<1.03という狭い範囲はウィンドウと呼ばれている。」
「ものすごく特徴的な結果だね。」
「その通りだね。まずCO、HCの浄化率を見てみると、理論空燃比(14.7)では90%を超えている。そこで空燃比が減少すると、酸素が欠乏していくので酸化反応は鈍り、急激に浄化率は減少していく。また空燃比が増加していくと触媒表面付近に過剰な酸素があるため、酸化反応状態は保たれ、浄化率は90%から微増していく。
一方、NOxでは理論空燃比(14.7)では、浄化率は同じく90%程度である。空燃比が下がっていくと酸素が欠乏しているため還元反応は進んで、浄化率は100%近く保たれる。ところが空燃比が大きくなると、過剰酸素が酸化反応をしようとして還元反応が全く進まず、浄化率は急激に減少していく。つまり、ウィンドウと呼ばれる狭い範囲で燃焼制御されること、つまり理論空燃比燃焼を実現させることが、ガソリンエンジンの排気ガス浄化には必要になるということだ。」
「じゃ理論空燃比燃焼ってどうやって得られるの?」
「その話を次にしよう!」小休憩を取って、理論空燃比燃焼の話をすることにした。@2018.12.10記、2019.7.21、2019.12.1修正
《参考文献および専門用語の解説》
5)「触媒」@Wikipedia
6)ハニカム構造☛一般には六角柱だが、ここでは四角柱のハチの巣構造(図2-2の写真)
7)触媒の担体☛吸着や触媒活性を示し、他の物質を固定する土台となる物質のこと。アルミナやシリカがよく用いられる。@Wikipedia
8)ウォッシュコート☛触媒単体を金属塩が溶解した溶液に浸し、引き上げ乾燥させて活性部分を担持させる方法
9)「自動車用ガソリンエンジン」中島泰夫@山海堂;p103