「さて、ディーゼルエンジンの正味熱効率がガソリンエンジンよりも高くなることは理解できたかな?今日はその比較実例¹⁴⁾を持ってきたよ。それが、この図1-8だ。左上図がガソリンエンジン、右下図がディーゼルエンジンの“燃料消費率等高線”の低燃料消費領域とその最小領域の比較をしたものだ。
昨日説明しなかったのは、これを理解するには専門用語の理解が必要だったからだ。一つは正味平均有効圧力(bar,MPa,N/m²)、そしてもう一つは燃料消費率(gr/kWh)だ。この2つの言葉はこれからエンジンを理解するのに必要な専門用語となるよ。
まず、“正味平均有効圧力”から説明する。エンジン筒内の燃焼圧力は図1-2で説明したように、燃焼期間から少し遅れて富士山のような形をした二等辺三角形の波形が現れる。平均有効圧力とは燃焼ガスがピストンを押す“単位面積当たりの平均的な力の大きさ”のことで、“排気量1㏄当たりのトルク”に比例すると考えていい。要するに、TDCからBTCに下降する間、瞬間的にピストンヘッドに作用する圧力を平均的に圧力がかかるとどの位かな、というのが平均有効圧力になる。
正味平均有効圧力は、筒内の燃焼ガスが1サイクル中にする正味仕事量(kWh,Nm)を行程容積(m³)で割った値で圧力単位(=Nm/m³=N/m²)で示したものだ。したがって、次のような関係にある¹⁶⁾。これは、軸平均有効圧力とも呼ばれていて、エンジンの排気量によらず、単筒の軸トルク特性を横並びに評価できるためよく用いられる言葉だ。エンジン全体の軸トルクは、行程容積でなく排気量を掛けると求められる:
❏軸トルク(Nm)=正味平均有効圧力(N/m²)×排気量(1気筒の行程容積×気筒数:m³)
ちなみに単位時間内での仕事量を表す“エンジン出力”は次のように表される:
❏エンジン出力(kW)=正味平均有効圧力×総行程容積(=総排気量×回転数)
また、図示平均有効圧力は例えば図1-5で言えば、
❏図示仕事(kW)=図示平均有効圧力×行程容積(1気筒当たりの排気量)
と表される。これはP-V線図上で図示仕事の総面積を行程容積で割った時、その”長方形の高さ”を表している。」
「排気量が同じであれば、軸トルクと思えばいいかな?」
「軸トルクと置き換えて考えれば、分かりやすいかもしれないね。」
「なるほどね。正味平均有効圧力は単筒排気量が同じであれば、軸トルクと考えるか・・・」
「それで次に説明したいのは、“燃料消費率”という言葉だ。日頃、クルマの燃費がいいとか悪いとか純くんのお父さんやお母さんもよく言うだろう。燃費は日常の会話で使う言葉でもあるけれど、実はここで使う燃料消費率の単位はちょっと違う。エンジン単体では“燃料消費率(gr/kWh)”のことで、1kWh当たりの燃料消費重量(gr)を表している。純くんが会話や雑誌で出てくる、ガソリン1L当たりのクルマの走行距離で表す“燃費(km/L)”とは違うね。正味仕事の燃料消費率(gr/kWh)を正味燃料消費率f(gr/kWh)と言って、BSFC(Brake Specific Fuel Consumption)と呼ばれる。なお、正味燃料消費率f(gr/kWh)と燃費(km/L)とは、反比例の関係;燃料消費率f(gr/kWh)∝1/燃費(km/L) にあるから混同しないようにね。」
「でも燃料消費率を1kWh当たりの燃料量で表現すると分かりにくいね。1kWhのイメージがないからかな?」
「そうだね。まず燃費(km/L)は走行距離(km)だから、“クルマの燃費指標”なんだ。これに対して、燃料消費率(gr/kWh)は“エンジン単体の燃費指標”なんだ。エンジン単体では走れないからね。だから走行距離(km)の代わりに、1時間当たり1kWの出力を出す(1時間の仕事量)には、どれくらいの燃料(gr)が要るのか(gr/kWh)、でエンジン燃費の良し悪しを判断している。ただし、“1kWh=1kJ/sec×3600sec=3600kJ”と言われてもピンと来ないよね。身近で言えば、1cal=4.2Jなので1kWh=860kcal、このカロリーはかつ丼一杯の相当すると言われている¹⁶⁾。少しわかってきた?」
「1kWhは1時間に行われる仕事量、そして1kWhは熱量860calの仕事量に相当する。何となく分かってきた気がする。」
「そして、1kWhの仕事をした時に消費する燃料重量(gr)を“燃費消費率(gr/kWh)”と呼んでいる。最近のエンジン出力も馬力(PS)ではなく、出力(kW)表示が多いよね。その“kW”なんだ。1kW=1.36(PS)という関係は知っているだろう。100kW=136PSということだよね。ここまでいいかな?」
「なるほど、1.36PSで1時間仕事する仕事量が“1kWh”か・・・。“燃費消費率(gr/kWh)”の単位の意味が何となく分かってきたような気がする。」
「では、図1-8に話を戻すね。横軸はエンジン回転数、縦軸は正味平均有効圧力で、エンジンの全負荷トルク特性の中に低燃料消費率領域(<240gr/kWh)を斜線域で、また最小燃料消費率域を実線で示している
明らかにディーゼルエンジンの燃料消費率領域がガソリンのそれと比べると、特に低負荷領域まで拡がっていることがよく分かるよね。また、最小燃費領域も30(gr/kWh)の差がある。したがって、ディーゼルエンジンの燃料消費率は、機械摩擦仕事で多少不利でも総合的には理論熱効率、損失仕事で有利な割合が大きいということが理解できるはずだ。ディーゼルエンジンをクルマに搭載した時、走行燃費(km/L)として、15~20%程度良くなる訳だね。分かったかな?」
ここで休憩して、午後から残りを説明することにした。@2019.7.20記
《参考文献》
14)MotorFan illustrated NO.85「熱効率」@三栄書房;p58
15)たとえば「正味平均有効圧力」@HatenaBlog(2016.11.4)
16)トコトンやさしい「電気自動車の本」廣田幸嗣@日刊工業新聞社;p36
出典:MotorFan illustrated NO.85「熱効率」@三栄書房;p58 より加筆