翌日、これまでの熱効率の話を基にして、10の疑問点の中で第1の疑問点であるディーゼル熱効率の話を進めることになった。
「熱効率η、仕事Wについていくつか説明してきたけれど、頭の中で整理できたかな?」
「理論熱効率が空気サイクルで圧縮比14でも65%しかならないということには驚いたね。さらに、理論仕事Wthから損失仕事WL、機械摩擦仕事Wfが差し引かれると、さらに熱効率が落ちていく。1990年代にはガソリンエンジンの正味熱効率が30%程度だったということが何だか分かる気がしてきたよ。」
「ところで、純くんの10の疑問、➊何故DVの燃費はGVよりもいいのか、ついてこれまでの理論熱効率ηthを使って考えてみようか?それにはディーゼルの理論熱効率ηthを求める必要がある。一般的なディーゼル理論サイクルは、図1-10にようになる²⁶⁾。」
出典☛「16章:ディーゼルサイクル」@東所沢2-31-12ホームページ
「これをよく見ると、図1-10に示したディーゼルの理論サイクルを見ていると、ディーゼル燃焼が分かってくる。先ず筒内温度が最大になるTDCまで吸気は圧縮される。理論上はTDCで燃料噴射され噴霧に火が付き、拡散燃焼(図1-5の右図)が始まる。理想的には膨張行程に入っても燃焼圧力は減少することなく、等圧過程で燃焼は行われるとする。その後、断熱過程により膨張行程を終える。オットーサイクルと異なる大きな点は、燃焼行程は等容過程ではなく、TDC直後に等圧過程で行われることである。そのためオットーと異なり、等容変化の始点と終点の行程容積比=V3/V2=σというパラメーターが必要となる。σは締切比(燃料噴射を締め切るという意味)と呼ばれ、σ=1.5~2.0を取ることが多い。以上の仮定を基に気体の状態方程式を使って理論熱効率を求めると次式のようになる。これは後でネット記事²⁶⁾を参考にして、勉強してもらうといいかな:
ηth=1‐ε⁽¹⁻κ⁾×α;ただし、α={(σ⁽κ⁾-1)/κ(σ―1)}>1
この式はどういう意味か分かるかな?」
「α>1ということは、ηth(オットー理論熱効率)>ηth(ディーゼル理論熱効率)
何だか変だね?ディーゼルの理論熱効率の方が悪いの?」
「理論サイクル上で圧縮比ε、比熱比κが同一の値であるとすれば、ガソリンの理論熱効率の方が高くなるね。だって図1-10からわかるように、オットーはTDCで一気に燃焼するのに対して、ディーゼルの方はTDCでやっと着火して膨張行程で燃焼する。いくら燃焼圧力が上昇しても膨張しているから、シリンダー圧力は上がらず、正の仕事は減ってしまい、結果的にはディーゼルサイクルの方が熱効率は悪くなるよね。でも実際にはディーゼルの方が圧縮比ε、比熱比κは大きな値になるので、大小関係は逆になる。その結果²⁷⁾、図1-11にような分布となる。」
出典☛「蘇る日本の乗用車用ディーゼル」Engine Review vol.13 NO.2 2013」;P2@自動車技術会 より加筆
「図1-11には実例で下記の計算例がプロットされている:
① ガソリン理論熱効率=46%;圧縮比ε=10.8(2012年平均値)、比熱比κ=1.26
② ディーゼル理論熱効率=54%;圧縮比ε=16.3(2012年平均値)、比熱比κ=1.30
つまり、理論熱効率ですでに8%の差がある。」
「なるほど。これが図示熱効率でさらに差が広がるわけか?」
「その通り。ディーゼルの損失仕事WLはガソリンのそれよりも小さいということだ。図示熱効率は次の式で表せたよね:
図示熱効率ηi=(Wth-WL)/Q1={Wth-(WL1+WL2+WL3+WL4)}/Q1
第1は冷却損失WL1が関係する。ディーゼルは過剰空気が燃焼室内に多く存在するため、ディーゼルの動作ガス自体の比熱が高くなり、動作ガスに含まれた過剰空気に熱量が蓄えられて、冷却損失WL1は小さくなる方向だ。
第2にガソリン燃焼は理論空燃比で燃焼させるため、吸気スロットルを絞るので吸気行程のポンプ損失WL4は軽・中負荷時に大きくなってしまう。一方、ディーゼルは吸気スロットル無しの空気過剰燃焼であるため、吸気損失は非常に小さく、ポンプ損失仕事WL4はかなり低く抑えられる。
この2つの大きな要因でディーゼルの損失仕事WLが小さくなる。その結果、図示熱効率ηiはガソリンのそれよりも大きくなるという訳だ。これが図示熱効率から考えた、ディーゼル燃焼がガソリン燃焼に比較して燃費が良くなるという説明だ。」
「なるほどね。損失仕事が小さい分だけ図示熱効率も良くなるという訳か?」
「ただし、良いことだけではない。正味熱効率ηeで登場した機械効率ηmはディーゼルでは悪くなってしまう。ディーゼルは圧縮比が高いので、ピストン摺動部を含めた機械摩擦仕事Wfが増加してしまうという欠点がある。ただし、ディーゼルエンジンの理論熱効率、損失仕事で有利な割合が大きく、機械摩擦仕事で多少不利でも結果的にはディーゼル車の燃費は15~20%程度良くなるという訳だ。分かったかな?」
「なるほど。何故ディーゼルエンジンの燃費がいいのか、理論熱効率、図示熱効率という考え方からよく理解できたと思う。今までは、断片的に聞いていた内容だけれども、今回は正味熱効率の成分である理論仕事、損失仕事、機械摩擦仕事から個々に内容を聞かせてもらったので、かなり納得できたと思う。」
「さて準備はかなり出来上がったので、明日は正味熱効率ηeと燃料消費率fの関係について説明することにしょう!」
「やっと、燃費の話に入れるんだね。楽しみだ!」ということで本日の談義を終えた。@2019.7.18記、2019.11.26、2019.12.11修正
《参考文献および専門用語の解説》
26)例えば「16章:ディーゼルサイクル」@東所沢2-31-12ホームページ
27)「蘇る日本の乗用車用ディーゼル」Engine Review vol.13 NO.2 2013」;P2@自動車技術会