「今日は実際のエンジン熱効率を表している正味熱効率ηeの話しをしよう!そこで、第5話で話をしたエンジンの5つの仕事について整理しておこうか?」
「えーと、理論仕事Wth、図示仕事Wi、正味仕事Weは
図示仕事Wi=理論仕事Wthー損失仕事WL
正味仕事We=理論仕事Wthー(損失仕事WL+機械摩擦仕事Wf)
そして、燃焼によって得られた熱量Q1に対するそれぞれの熱効率を理論熱効率ηth、図示熱効率ηi、正味熱効率ηeとしたよね。」
「その通りだね。まず図示仕事Wiから詳しく説明していこう。オットーサイクルから実際のガソリンエンジンサイクルの模式図²⁴⁾を描くと、例えば図1-9のようになる。」
出典☛「内燃機関講義(上巻)」長尾不二夫@養賢堂版
「白い領域が図示仕事Wiで斜線の領域が損失仕事WLである。WLは図1-9に示した4つの損失仕事WL1~WL4の総和になる。それぞれ説明すると、
➊冷却損失仕事WL1:
理論サイクルの膨張線「点3➡点4」から下がった実際の膨張線「点3´➡点d”に囲まれた斜線で示した部分」が冷却損失仕事WL1になる。シリンダーの壁面、シリンダーヘッド、ピストンヘッドなどから熱伝導により失われる熱量である。
➋時間損失仕事WL2:
燃焼はTDCより遅れて約10度のクランク角の間で行われる。そのため、理論サイクルの等容線「点2➡点3」に比べて、実際には円弧を描いて「点b➡点c」のように燃焼が進む。燃焼圧力が山形(図1-6)のように変化するからだ。クロス線の部分が時間損失仕事WL2となる。
➌排気損失仕事WL3:
排気バルブは排気効率を上げるため、BDCより早期に開弁するため、点で示した部分「点d➡点a」の領域にてわずかな圧力降下が生じる。これが排気損失仕事WL3となる。
➍ポンプ損失仕事WL4:
排気仕事の「点a➡TDC」、吸気仕事の「TDC➡点1」までの斜線の部分までの負の仕事の総和で、吸排気のポンプ損失仕事となる:WL4=Σ排気仕事+Σ吸気仕事
これら4つの損失仕事の中で、➊冷却損失仕事、➍ポンプ損失仕事の割合は大きくなる。
ここまでの話をまとめて、図示熱効率ηiは次式で表される:
図示熱効率ηi=Wi/Q1=(Wth-WL)/Q1={Wth-(WL1+WL2+WL3+WL4)}/Q1」
「ところで、損失仕事WLは計算で算出できないの?」
「計算では無理だね。実際にはまずエンジン筒内圧Pの実測値からP-V線図の面積をプログラム計算して図示仕事Wiを算出する。さらに実トルク(実際にエンジンを回転させる力)による仕事である正味仕事Weを算出。機械摩擦仕事²⁵⁾WfはWeとWiの差から求められる。つまり、機械摩擦仕事Wf=正味仕事We-図示仕事Wi ということだ。そして正味熱効率ηeは次のように表される:
ηe(正味熱効率)=We(正味仕事)/Q1={Wi(図示仕事)-Wf(機械摩擦仕事)}/Q1
={Wth(理論仕事)-WL(損失仕事)-Wf(機械摩擦仕事)}/Q1
ここまでわかったかな?」
「一応、頭に中で整理できたと思う。」
「次に機械効率ηmというものを考える。難しくはない。ここでは、機械効率ηmで正味熱効率ηeを表してみる。機械効率ηmはその名の通りエンジン燃焼で発生した図示仕事Wiがどれだけエンジンの正味仕事として出力できるかの効率を表している:
We(正味仕事)=Wi(図示仕事)×ηm(機械効率)
すると、We=ηe×Q1=Wi×ηm=(ηi×Q1)×ηmから、Q1を除去して次式が得られる:
ηe(正味熱効率)=ηi(図示熱効率)×ηm(機械効率)
正味効率ηeが図示効率ηiと機械効率ηmの積で表されるということは、効率を筒内と筒外に分離できるということだね。」
「仕事W、効率ηがいろいろと出てきたけれど、明日までに頭の整理をしておくよ。」
「明日は、これまでの仕事W、効率ηを使ってディーゼルの熱効率について話をしよう!」
ということでお開きにした。@2019.7.16記、2019.11.26、2019.12.11修正
《参考文献》
24)「内燃機関講義(上巻)」長尾不二夫@養賢堂版;p37
25)機械摩擦仕事☛ピストン、コンロッド、クランク軸などの機械摩擦仕事、吸排気バルブの機械摩擦仕事、そしてエンジンで駆動される補機類の機械摩擦仕事をすべて総和したもの。エンジン回転数が上昇すれば比例して増加していく。