「今日はまずガソリン・ディーゼルの燃焼について、いくつか純くんの知識を確認していきたいんだ。どういった言葉で話を進めていいのか、分からないからね。ちなみに、エンジンの燃焼サイクルのことをどこまで知っているの?」
「これは絶対必要だと思って、PCで検索した図のコピー(図1-3)を持ってきたよ。」
「4サイクルエンジンの燃焼サイクルは、①吸気工程、②圧縮工程、③燃焼行程、④膨張行程、⑤排気工程 に分けられる。吸気・圧縮で1往復2行程、瞬間的に燃焼行程があり、その後膨張・排気で1往復2行程、計5行程が4サイクルエンジンの作動というわけだ。ガソリンの燃焼行程では筒内の混合ガスを点火プラグの火花で着火するのに対して、ディーゼルの燃焼行程では圧縮比⁴⁾を高くすることで吸入空気を高温にし、ノズルから噴射された燃料(主に軽油)噴霧をその高温圧縮空気で着火させる方法であるということかな?」
「よく勉強しているね。さらに付け加えると燃料の物性値が違うね。ガソリン燃料は引火点⁵⁾が-46~-35℃に対して、ディーゼル燃料の軽油では45~80℃と引火温度が100℃近くも高い。」
「要するに、ガソリンは室温でガス状になるけれど、軽油は常温では液体(噴霧)のままというわけだね。だからガソリン燃焼は吸気バルブの前で噴射しても瞬時に混合気を作ることができる。それに対して、ディーゼルは軽油であるため室温ではなかなか気化しない。だから、着火しやすいように微粒化した噴霧を筒内に噴射する必要がある。」
「その通りだね。また純くんが今説明したように着火の形態も違うけど、燃焼の形態も大きく異なる。図1-4に示したようん、ガソリン燃焼は点火プラグで着火させた時、混合気に火炎核という火の塊のようなものができる。それが火炎伝播して、燃焼室全体に燃え広がっていく。この燃え広がるのことを乱流火炎伝播と呼んでいる。」
出典☛「火花点火機関の火炎伝播」太田安彦@名古屋工業大学 より加筆
出典☛ MotorFan illustrated vol.78「ディーゼル」@三栄書房;p38-39
「一方、ディーゼル燃焼では図1-5に示したように、ピストンヘッドの冠面に大きく窪んだ燃焼室(キャビティ)があり、そこに10‐20μm程度の粒径の噴霧が噴射される。そして噴霧の外側から高温圧縮された空気を巻き込んで燃焼しやすい状態になったら、着火し燃焼していく。噴霧の外側から1枚1枚皮を剥いでそれが燃え広がっていく感じかな。この燃焼を空気と噴霧が順次拡散されていくことから、拡散燃焼と呼んでいるね。共に後で詳しく説明するよ。」
「ガソリンとディーゼルでは着火の形態も燃焼の形態も随分違うね。」
「そうなんだ。もう少し付け加えると、ガソリン燃焼にはPFI(筒外噴射)とGDI(筒内噴射、ガソリン直噴)の2種類に分けられる。PFIはスロットルバルブと吸気バルブとの間の吸気ポートと呼ばれる筒状の中で、燃料噴射ノズルから噴射された燃料と吸入空気との混合気をつくってその混合気を筒内に吸い込むタイプだ。GDIでは筒内内の空気とガソリン噴霧とで瞬時に燃焼室内に混合気をつくる。1996年に三菱自動車から世界で初めて生産開始したGDIが、今では世界の標準になっている。ただし、ここからは話を簡単にするため、PFIによるガソリン燃焼を取り上げて、燃焼室でどんなことが起きているのか考えていくことにしよう!@2018.12.5記、2019.7.15、2019.11.23、2019.12.9修正
《専門用語の解説》
4)圧縮比☛ピストンの下死点(最下点)から上死点(最上点)にかけての圧縮比。10分の1に圧縮する場合は、圧縮比=10ということ。ガソリンの圧縮比は9~11程度11に対してディーゼルでは16~18。ただし、最近の傾向では共に圧縮比14に近づく傾向にある。
5)引火点☛可燃性蒸気が爆発下限値の濃度に達する液温のこと。