翌週になると早速長女が純一郎を連れてやってきた。
「ではお父さん、お母さん、純一郎のこと、宜しくお願いします。」
「わかったよ。お前がいた部屋を片付けておいたから、そこで寝泊まりしてもらうよ。安心して任せておいて。ただねえ、お爺さんの話しが分かればいいけれど。あの人短気だしちょっと心配だけど、純一郎は何故かお爺さんに懐いているからいいんじゃない。途中でどちらかがいやになってきたら、電話するよ。」
とお婆さんが娘に心配そうに話をしているのがハカセにも聞こえて来た。
「ではお父さん、宜しくね。」
「ああ。どこまでできるか分からないけれど、任せてくれ。」
長女はそのまま帰ってしまった。当の純一郎は早速自分の部屋を見に行き、持ってきた衣類などを部屋に置きに行った。いよいよ、1か月に及ぶクルマ談義が始まった。昼食を終えてハカセが新聞を読んでいると、純一郎が1枚の「メモ」を持ってきた。
「ハカセ(彼はお爺さんと呼ばずに以前からハカセと呼ぶようになっていた)、いろんなクルマ雑誌やネット記事を読んできて、これまで理解できないことをまとめてみたんだ。箇条書きしてあるから、まずそれを見てくれる?」
「ああいいよ。どれどれ・・・?たくさんあるね。」
メモに目を通すと、さすがクルママニアと思われる内容が書き並べてあった。ハカセがここ数年、“クルマ講演会”で話をする内容に当てはまるものが半分以上もあった:
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➊ディーゼル乗用車は、ガソリン乗用車よりも何故燃費がいいのか?
➋ガソリンのダウンサイジングターボは、何故広まらなかったのか?
➌ガソリンの超希薄燃焼技術で何故燃費が良くなるのか?
➍何故VW社は排気ガス不正問題を起こしたのか?
➎ガソリンハイブリッド車(HV)は、何故日本市場にしか広まらないのか?
➏2016年11月発効のパリ協定を先進国は守れるのか?
➐日本はEV化が遅れているというのは本当か?
➑欧州は過激報道したEV化を本当に進めていくのか?米国・中国はどうか?
➒EVの根本課題は、既に解決できているのか?
➓地球温暖化に対して、EV化はどこまで進んでいなければならないのか?
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一つ一つの疑問点の中身が結構重く、さすがのハカセも驚いてしまった。恐らく、クルマメーカー、大学・研究機関の専門家の方々でも全部の疑問に対して、簡単に説明できないのではないか?そう思いながら、純一郎を自分の孫ながら感心していた。
まあ、一つ一つゆっくりと説明していけば、「10の疑問点」は説明できるかもしれない。それに、これだけの疑問を持つということは、知らないうちに純一郎は相当勉強をしてきた証拠でもある。結構専門的な言葉を使っても理解できるだろう。先ずはハカセ自身が初心に戻って一緒に考えていこう、と思った。
「ねえ、純くん。いきなり10の疑問点から入るのではなく、基礎的な知識も確認しながら、話を進めていくというのではどうだろうか?」
「そうだね。僕としては、この10の疑問点をすべて理解しようとは思っていない。でもできるだけ、ハカセの話を聞いて自分で考えていきたい。そのためには必要と思われる基礎知識はぜひ教えて。」
これを聞いて安心して話を進められると思った。小休憩後、クルマの歴史から話を進めることにした。
@2018.12.4記、2019.11.19、2019.12.9修正