日本はEV化に乗り遅れてしまったのか?
クルマからのCO2排出量を2013年度比で2030年に30%削減するには、EVの力が必要であるということは分かった頂いたと思う。欧米では20%以上、日本でも10%以上のEV化率が2030年時点で必要である。ところが、ここ数年のEV化率は数%程度で中々伸びてこなかった。やはり、航続距離400㎞、価格400万円を超えるEVは一般消費者には受け入れられないのであろうか?
そう考えていた矢先、2020年後半に欧州の状況が一変してきた。第1章1-1の図3にあるように、欧州平均CO2排出量が大きく削減されてきたのだ。ここ数年120g/㎞前後を推移していた平均CO2の排出量が2020年1月-6月には118.5g/㎞であった¹⁾のが、1月-8月にはEU-21で突然102.2g/㎞まで減少してきた²⁾。理由は2021年規制を目標とした電動車の信じられない拡販であった。マイクロHV、HV、PHV、そしてEVという電動車が市場に流れ込んできたのだった。8月時点で昨年同時期の年初来累計台数がコロナ禍で33%減の725万台になったにも関わらず、8月電動車のマーケットシェアは21%という伸びを示した。9月にはディーゼルシェア24.8%を抜いて、何と25.2%まで伸ばした³⁾。将に欧州電動化革命が起こってしまった。こんなことを誰が想像したのであろうか?
一方、大陸を渡った米国では2012年に当時のオバマ政権がMY2025燃費規制⁴⁾を2019年9月にトランプ政権は緩和をし、さらに加州のZEV規制制定の権限を停止するという動きになっていた。ところが、2021年1月バイデン新大統領は政権発足後、早速パリ協定に復帰し、MY2025規制をMY2026規制として復活させようとしている。さらに、公用車65万台全てをEVにしていくと表明。ぬるま湯に浸かった米国もバイデン大統領に変わり、時間はかかりそうであるが、やっと動き出したという感じである。
中国の2020年乗用車販売台数は、前年比6%減の2017万台⁵⁾となり、世界で最も早くV字回復した国となった。NEV規制によるEV、PHVの販売台数は136万台⁶⁾、EV化率は6.7%となり、世界最大のクルマ市場、EV市場はコロナ禍を物ともせず、着実に電動車NEV、HVを増やしている。電動化革命が起きた欧州と共に、今後中国は年々強化されていくNEV規制で着実にEVは展開されていくことになると思われる。
問題なのは、日本である。最近はそう思うようになってきた。HV化でCO2削減に対して着実に日本市場、世界市場で貢献してきた。また、日本独特である軽自動車化は、日本のクルマCO2削減に大きく貢献してきた。2030年には10%程度のEV化を進めるだけで、パリ協定の約定目標であるCO2排出量を30%削減できる目途も立ってきた。HV化・軽自動車化に浮かれ、俺たちだけは世界とは違うと勘違いをして、さらなる2030年後の姿を見過ぎていた。ガソリン満タンで800-1000㎞走れるクルマじゃないとクルマと言えないと傲慢に思っていた。世界のEV化が急激に進んでいることに対して、今や最もEV化に対する意識、そしてEV化そのものが大幅に遅れてしまったというのが今の日本ではないだろうか?世界乗用車販売市場の5%に相当する日本の500万台市場で生き抜くローカルベストの道は果たして正解なのであろうか?
以上のことを踏まえながら、再度欧州から振り返ってみたいと思う。そして、身近にEV化の道が見えるように、少し枠を拡げながら探索してみたいと思う。@2021.3.12記
《参考文献および専門用語の解説》
1)「二酸化炭素排出量レポート2020年上期」JATO JAPAN Limited@2020.8.24
2)日経Automotive(2021年1月号)@日経BP社;P44
3)「2020年9月欧州新車販売台数速報」JATO JAPAN Limited@2020.11.6
4)「米国の燃費規制:バイデン次期政権が厳しい規制を制定し、EV化を推進」MARKLINES@2021.1.8
5)「中国の自動車販売台数:2020年は1.9%減の2531万台」新華社@2021.1.19
6)「欧州のEV・PHV販売、中国に並ぶ 20年は前年の2.4倍」日経新聞@2021.2.5
コロナ禍で2020年新車販売台数は24%減少!
2020年初めから世界中に拡散していったコロナ禍の影響で、自動車産業界も例外なく大きなダメージを受けた。欧州の新車販売台数の2001年から2020年までの推移を図4-1に示した。2020年には年間の新車販売台数が24%も落ち込み、1,194万台¹⁾となった。2-3節で触れたように、2013年における保有台数2.21億台が2030年でもそのまま維持されるとして仮定した年間の新車販売台数1,470万台に対しても19%減少(地球温暖化減速にとっては良いことではあるが・・・)となる。1,500万台の新車販売を誇っていた欧州市場では、第4章の冒頭で触れたように、2021年95g/㎞規制を順守すべく欧州電動化は大きく動き出し始めていたのだった。
出典☛「2020年12月欧州新車販売台数速報」JATO JAPN Limited@2021.2.3 より加筆
2020年9月の電動化率は何と25.2%、その半分がEV化率!
2-3節で触れたように2019年には電動化(HV・PHV・EV)は8%、その半分の4%がEV・PHVであった。図4-1の2011年1月から2020年9月までの毎月のディーゼル車、ガソリン車、電動車(マイクロHV、HV、PHV、EV)のシェア%を図4-2に折れ線グラフで示した²⁾。2011年ではディーゼル化率55%前後、ガソリン車44%前後、電動車1%以下という状況であった。
ところが、2015年9月のVW社のデフィートデバイス³⁾発覚から、ディーゼルシェアは徐々に下がり始め、5年後の2020年9月には半減以下の24.8%まで落ち込んでいる。ガソリン車シェアは2015年9月からディーゼルシェアを補うように増加し始め、2019年9月には59%まで駆け上がった。したがって、2016年➡2019年では平均CO2が下がるどころか、徐々に増加していった(第1章の図3参照)。
一方、電動車シェアは2021年規制を見据えて2019年9月までに徐々に増加し始め、9月単月で11%まで伸ばしてきた。そして2020年に入ると、図4-2からも分かるように、電動化率は急激に増加して2020年9月単月で25.2%まで伸ばしてきた。何とあのディーゼルシェア24.8%を抜いてしまったのである。これが最近言われている、「欧州電動化革命」である。@2021.3.14記
出典☛「2020年9月欧州新車販売台数速報」JATO JAPN Limited@2020.11.6
《参考文献および専門用語の解説》
1)「2020年12月欧州新車販売台数速報」JATO JAPAN Limited@2021.2.3
2)「2020年9月欧州新車販売台数速報」JATO JAPAN Limited@2020.11.6
3)ディフィートデバイス(Defeat device)☛内燃機関を有する自動車において、排気ガス検査の時だけ有害な排出物質を減らす装置@Wikipedia
2020年1月-10月販売車のEV化率は9.3%!
さて、前節の電動化革命により肝心のクルマからのCO2はどの程度下がってきたのであろうか?図4-3に2020年1月から10月までに販売されたクルマの平均CO2量(g/㎞)がまとめてある¹⁾²⁾。ディーゼル車、ガソリン車は122g/㎞前後で差がない。これはディーゼル車が重量車に適用されているため、CO2排出量に有意差がなくなってしまったという結果である。HVはトヨタのようなフルHVとルノー、スズキ、現代にようなマイクロHVが含めれているため、104g/㎞前後で然程良くない。ヤリスHVであれば、64~71g/㎞程度であるのでトヨタHVだけであれば難なく95g/㎞規制はクリアしている。PHVは平均的に40g/㎞程度に収まっているようだ。2020年1月~10月の電動車シェアは19.3%。その内、EVが5%、PHVが4.3%になっており、いわゆるEV化率は何と9.3%にも上る。
出典☛「2020年欧州二酸化炭素排出レポート」
JATO JAPN Limited@2020.12.21 より加筆
2020年1月-10月販売車でPSAだけが100g/㎞を切った!
次にこれらの組み合わせで、2020年1月~10月に販売したクルマの各社平均CO2はどの程度であったのか?調べてみた。図4-4にその結果例を示した¹⁾。最も低いPSAでも97.9g/㎞と未だに95g/㎞規制をクリアしていない(PSAの平均販売車重が不明であるので、95g/㎞で判断していいのか、何とも言えないところではあるが・・・)。第2位は元々第1位で95g/㎞規制を突破していると思われたトヨタ社。マツダ社を優遇措置であるオープンプール(後述)した為したため、グループ全体としてはCO2量が悪化している。後は、ルノー日産、現代起亜、スズキ、FCAと続く。VWはグループとして第8位の114.5g/㎞と20g/㎞程度オーバーしている。この状況が11-12月のEV駆け込み販売でどの程度良化の方向に向かっているのか、興味深い。
出典☛「2020年欧州二酸化炭素排出レポート」
JATO JAPN Limited@2020.12.21 より加筆
スーパークレジット、フェーズインは救済措置?
2021年規制を迎えるの当たって、EV化を積極的に進めるためとフェーズイン時期の救済措置が設定してある。これを簡単に説明¹⁾しておこう:
➊スーパークレジット☛
排出量が50 g/km以下の車両は、2020年から2022年の間に限り、以下の重み係数が適用され、全体の平均値を小さくすることができる。2020年は1台が2.00台、2021年は1台が1.67台、2022年は1台が1.33台。2020年から2022年までの3年間を合算した排出量の平均値の内、スーパークレジットを利用した場合と、利用しない場合の差が、1ブランドあたり最大で7.5g/kmとなる範囲で適用される・・・>ZEV規制、NEV規制のクレジット計算に似た救済措置?
➋フェーズイン☛
2020年は猶予期間とされ、自動車会社が販売した車両の内、排出量が多い上位5%の台数は計算対象から除外される。2021年からは、販売されたすべての車両が計算の対象となる・・・>これも明らかに救済措置?
➌オープンプール☛
排出量の平均値を算出するにあたり、自動車会社は連合を組んで目標値を達成することができる。この連合をオープンプールと呼ぶ。例えば、PSA:シトロエン、DS、オペル、プジョー等、トヨタ:レクサス、トヨタブランド、マツダ。・・・>達成可能な会社が達成できない会社にポイントを分け与えて、罰金額を減らしてやろうとする措置と推定。
以上の3つの救済措置をして、2021年95g/㎞規制を迎えることになる。
図4-5には2020年1月~10月の各社平均CO2排出量に対して、救済措置有り無しのデータを示した。95g/㎞規制は販売した車両重量の平均値が重ければ甘くなり、軽ければ厳しくなるので、あくまで95g/㎞規制値は参考として頂きたい。そのため、100g/㎞で線も参考として示しておいた。PSAは余裕でクリア、トヨタはマツダ超過分の影響でギリギリクリアか、ルノー・日産はクリア、巨大なVW Grは100g/㎞に到達せず、EVの追い込みでどうなるのかといった状況である。
欧州販売台数の半分は、カンパニーカー!
ただ、ここで不思議?と思われる読者も多いと思う。いくらエンジンメーカーが電動車の拡販に力を入れても購入するのは消費者の方である。400㎞、400万円のクルマを欧州の消費者は、何故好んで購入する気になるのか?特に日本人には不思議でならない。
日本と欧米の消費者の大きな違いに、欧米で導入されている「カンパニーカー」の存在がある。日本では経営陣、役員にしか使われていない社有車が、欧州では販売台数の半分がカンパニーカーなのである。通勤定期や社宅のような感じでクルマを社員に貸与する。車種の選択は職能等級によるが、肩書無しだとBセグメント車、係長クラスならばCセグメント車、課長クラスならばDセグメント車といった具合である³⁾。貸与する側の会社としては企業イメージアップのため、EV・PHVを使わせようとしているのが実態。自動車メーカーの思惑とカンパニーカーを貸与する企業側のニーズがガッチリ合ったというわけだ。
3つの救済措置とカンパニーカーへのEV導入もあって、欧州の電動化革命はかなり勢いよくスタートした。そして、明らかにクルマから排出される平均CO2量も下がってきた。恐らく政府が援助している中国のEV化としばらくは良い勝負をするのではないかと思われる。そして、世界のEV市場は欧州と中国が中心となって確実に広がっていく。@2021.3.17記
出典☛「2020年欧州二酸化炭素排出レポート」
JATO JAPN Limited@2020.12.21 より加筆
《参考文献および専門用語の解説》
1)「2020年欧州二酸化炭素排出レポート」JATO JAPN Limited@2020.12.21
2)EU-22☛対象国は以下の22カ国:オーストリア、ベルギー、クロアチア、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、イギリス、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、オランダ。
3)「欧州の場合、販売台数の半分はカンパニーカー。そこに電気自動車が入ってきており販売台数急増」国沢光弘@2021.1.29
2020年欧州はEV・PHV132万台、中国は136万台!
欧州市場から世界市場へEV化はどうなっているのか、少し拡げてみよう。欧州における2020年の電動革命は、国別メーカのEV・PHV世界販売台数でもはっきりと表れている。図4.6に2019年と2020年での販売台数順位20位までの合計販売台数を国別にまとめたものを示した¹⁾。2019年の販売台数が221万台に対して2020年では312万台と1.4倍に増加したと言える。特に欧州のEV販売台数シェアは、第3位14%から一気に第1位32%と上昇している。これは当然欧州市場の数字が大きく反映されていると思われるが、世界市場への拡販、特に中国市場の販売台数割合も影響していると思われる。
ただし、図4-6は販売台数順位20位までの合計であるため、実際には2020年に欧州は132万台、中国は136万台²⁾ということで、最終的には中国が何とか首位を維持したようだ³⁾。EV化率は、中国が6.7%に対して欧州は11.1%となっている⁴⁾。如何に欧州が急激に伸びてきたのか、この数字からもよく理解できる。これからも中国市場、欧州市場での中国メーカと欧州メーカの熾烈な戦いが続きそうだ。その中にたった1社でこの争いに加わろうとしているのが、米国のテスラ社という構図になっている。韓国メーカも頑張ってはいるが、あくまでわき役に控えている。
日本の自動車メーカは非常に心配である。脇役どころか、21位以下のOthersに組み込まれてしまいそうな流れである。電動車としてHVを世界拡販しながら、EV・PHVも徐々にと考えているようだが、世界のEV化の流れは思いのほか強く、結果的には日本は9%から4%に大きく後退している。このままOthersに吸い込まれていくのであろうか?
出典☛「2019年vs.2020年のEV・PHV販売台数HV」兵庫三菱/姫路三菱ウェブ編集局@2021.2.26 からのデータを基にグラフ化
EV販売で欧州勢が大躍進、Best10に6社!
メーカ別世界販売台数では、テスラ社が37万台から50万台に大きく伸ばし、第2位のVW社を2倍以上引き離してダントツの1位を確保している。モデル3だけで世界で37万台も販売された。この傾向はしばらく続きそうな勢いである。
第2位のVW社は、ID.3、e-Golf、パサートPHVなどでEV・PHVを拡販した成果が表れ、2019年の第6位からの躍進となった。この傾向も今後続きそうだ。やはり中国勢は全体として量的にも勢いがあるが、2020年10万台以上の第10位までの中に欧州勢は6社も登場して来た。欧州電動化革命の勢いがそのまま表れた形となっている。
それに対して、上位にいた日産が7位から14位に、トヨタは10位から17位に順位を下げ、三菱は20位までのランキングから姿を消した。日本勢は余程の覚悟をしないと、EV・PHVの世界には入り込めない状況になってきている。米国Big3がシェール革命の恩恵でCO2削減のクルマ社会から忘れ去られたように、日本Big3がHVの成功に酔いしれて、EV化の世界からは忘れ去られてしまいかねない状況にあると考えた方がいい。
出典☛「2019年vs.2020年のEV・PHV販売台数HV」兵庫三菱/姫路三菱ウェブ編集局@2021.2.26 からのデータを基にグラフ化
中国NEVは政府・自治体の補助金で着実に市場に拡大!
中国政府は2035年までにNEVシェアを50%以上に高めるという方針⁵⁾を出した。そして残りは全てHVにして100%環境車にするようだ。これに伴い、中国政府・大都市政府は補助金支給やナンバープレート発給優遇などで後押しする形をとっている。たとえば、上海市政府は2035年ではなく2025年までに個人が購入する新車に占めるEVの比率を50%以上、政府公用車などをNEVに80%以上に切り替えるという目標を発表している⁶⁾。また、東京と同じ人口の深セン市では既にタクシー(2.2万台)もバス(1.6万台)も100%EV(全てBYD製)になっている⁷⁾。2015年にはEVタクシーの購入に220万円、2017年には270万円の補助金を支給しているとのことだ。正に国・地方自治体が一体となって国民を援助し、EV化を前へ前へと進めようとしている。これが中国大都市部のEV化実態だ。
話は変わるが、深セン市では一部の区間で自動運転の実証実験を行うEVバス(パンダバスと呼ばれている)の運行が始まった⁷⁾。このバスにはAIが搭載されており、レベル4の自動運転を行っている。周辺の車両、歩行者などを識別して、12㎞の区間を45分で走行している。アジアのシリコンバレーと言われる、人口1300万人の深セン市は、EV化はもちろんのこと、スマートシティーとして発展を続けているのだ。
一方、日本では2021年2月トヨタ社が富士の裾野で2000人程が住めるIT実験都市Woven Cityの着工に取り掛かったと公表された。いつ完成するのか公表されていないが、いずれにしてもこのスマートシティーへの取り組み方で、中国1300万人と日本2000人のレベル格差は、あまりにも大きい。HV化の成功に浮かれてしまった日本と必死にEV化に賭けた中国とでは、いつも間にか随分差がついてしまったと感じるのは私だけであろうか?この中国の主要都市部におけるEV化、そしてスマートシティ化は、これから中国国内の地方都市部へと広がっていくことであろう。その速度は日本人が考えているよりもかなり速い。
消費者の高まるクルマへの要求を追いかけるようにEV開発をしていたら、EV化というものは世の中に浸透していかないような気がしてきた。今まさに欧州はCO2規制とカンパニーカー、中国はNEV規制と国・自治体の補助金という相乗効果でEV化の大きな波を作ろうとしている。結果的にEV化路線に乗り遅れてしまった米国と日本はこれからどう挽回していくのであろうか?挽回する気があるのであろうか?@2021.3.19記
《参考文献および専門用語の解説》
1)「2019年vs.2020年のEV・PHV販売台数HV」兵庫三菱/姫路三菱ウェブ編集局@2021.2.26
2)「欧州のEV・PHV販売、中国に並ぶ 20年は前年の2.4倍」日本経済新聞電子版@2021.2.5
3)図4-6は上記文献の数字から、上位20位までの国別で分類した結果。したがって、Othersの中に各国の数字が隠れている。文献1)➡2)では、欧州99➡132万台、中国66➡136万台となっている。中国では約2倍になっていることから、21位以下に非常に多くのEVメーカーを抱えていることがこの数字でもお分かりになると思う。ただし、文献2)の数字に米国50万台、韓国18万台、日本11万台を加えると347万台となり、文献1)の312万台と異なってしまうが・・・。あくまで参考数字ということでお許し願いたい。
4)2020年欧州の乗用車販売台数は1,196万台(欧州新車販売は2121年後半から回復@Response2021.2.5)、中国は2,017万台(新華社2021.1.19)であったので、それぞれのEV化率は、中国:136/2,017=6.7%、欧州:133/1,196=11.1%。
5)「中国、35年に全て環境対応車 ガソリン車排除」JiJi.COM@2020.10.28
6)「中国・上海市、個人向け新車のEV比率を5割超に」財新Biz&Tech@2021.3.10
7)「中国の1000万都市はタクシーもバスも100%電動化を達成」中国EV旋風@2021.3.3
テスラ社があっても2019年EV化率は2%❔
さて、テスラ社を有する米国の国内EV化はどうなっているのであろうか?シェール革命の恩恵を受けて、ガソリン価格が世界価格の1/3~1/4で米国国民に供給されたため、クルマの燃費というものにほとんど無関心な状態が続いた。唯一加州のZEV規制に参加した11州だけは、EV化を進めることによりクルマからのCO2を削減していく意識を持っていたように思える。それに反して、トランプ政権は米国第1主義を掲げて、国民が望んでいるガソリンSUVを供給し、SUVでしか利益を上げられなくなった米国Big3を後押しすることが優先施策となった。2017年6月にはパリ協定脱退を表明し、2018年8月にはオバマ政権時代に制定した燃費規制MY2025を先送りにして現行のMY2018レベルを続行するとした。これまで進めてきたクルマの燃費規制、ZEV規制に大きくブレーキをかけた。2020年までの4年間は、当時の欧州市場、そして中国市場の動きとは全く異なるものとなった。ここまで緩んでしまった米国自動車業界は、たった1社だけで頑張っているテスラ社を除けば、米国の、米国による、米国のための自動車産業界となり果ててしまったのだ。
図4-8に米国市場における2011年から2019年までのEV・PHVの販売台数推移¹⁾を示した。テスラ社は国内で中々売れないこともあって、市場を欧州、中国に求めた。その結果、2019年の乗用車・SUVの米国販売台数は1705万台であったので、PHVを含めたEV化率は1.9%となる。テスラ社1社が頑張っているので、この1.9%という数値が確保できたのだと思われる。未だ2020年のクルマの総販売台数、EV・PHV販売台数が公表されていないので、EV化率は分からないが、同程度の2%前後と考えている。欧州11.7%、中国6.7%からEV化がさらに大きく進んでいくであろうと推定されるので、現時点2%程度の米国EV化では、欧州、中国から大きく引き離されたと考えるべきであろう。
出典☛「米国もついに電気自動車の時代へ?バイデン政権が改革」NATIONAL GEOGRAPHIC@2021.1.27
これから進める「バイデン大統領EV化計画」❔
そして、2021年1月トランプ政権からバイデン新政権に変わった。トランプ政権時代の悪行を取り戻すため、先ずはパリ協定に復帰することを表明した。また、燃費規制の強化策として規制MY2025を規制MY2026として施行する検討に入った。そして、バイデン新大統領は公約通り、2050年までにクルマからのCO2をゼロにする!検討に入った。クルマの寿命を考えると遅くとも2035年までに米国全体で販売される乗用車・SUVをゼロエミッションにしなければならない。これは欧州各国が既に表明している目標に近い。具体的な計画として初めに65万台の公用車の内、乗用車22.4万台、トラック41.2万台をEV化すると表明²⁾。この調達に関しては従来の連邦政府のBuy Americanルールがかなり厳しく適用されると述べられている。トランプ政権時代にはEV化に否定的だったGM社は、豹変して2021年1月にEVトップメーカを目指すため、新しい事業部門BrightDropを立ち上げると発表。
2021年1月22日CESの基調講演で、GM社のCEOメアリー・バーラ氏がその概要を語った³⁾。主要製品は、一つは航続距離250マイル(402㎞)のEV600と呼ばれる電動バン、そしてもう一つはEP1と命名された電動パレットだ。これにテレマティクス、車両管理などの知見を含めて、Eコマース需要の急速な増加に対応していくとしている。2021年初頭にEP1、2021年末までにEV600を投入していく。その際、車両情報などをひも付けた形でソフトウェアサービスも提供予定だという。
さらに、一般乗用車から高性能車までのEV化も手掛ける。そして2025年までに何と30車種のEV化を進める方針を示している。その発売車両の2/3は北米で販売させる計画だ。図4-9にEV開発に関するGM社の各数値目標を示した⁴⁾。GM社は社運を賭ける勢いで取り組もうとしているのがよく分かる。またRivian社、Lordstown Motors社などの新規EVメーカーの参入も相次いでいる。バイデン大統領の車両置き換え指定は、今着々と進み始めた⁵⁾という感じである。
国産EVへのこだわりを見せ、米国を世界のEV産業の中心にしたいというバイデン政権の目標ではあるが、一度緩んだ手綱を締めるには相当な時間とお金、国民の理解、そして継続する連邦政府の力が必要とされる。これからに期待したい。@2021.3.20記
出典☛日経Automotive2021年2月号;P28 より加筆
《参考文献および専門用語の解説》
1)「米国もついに電気自動車の時代へ?バイデン政権が改革」NATIONAL GEOGRAPHIC@2021.1.27
2)「バイデン大統領が連邦政府機関の全車両のEV化を発表」TechCrunch Japan@2021.1.27
3)「電動化に全振りのGM、全車種の電動化とともに物流向けEVサービスへ参入」Monoist@2021.1.14
4)日経Automotive2021年2月号;P28
5)「バイデン氏のEV計画は実現するか」Wedge Infinity@2021.1.28
HVに謳歌していた日本は、欧中米から離れていく❔
欧州・中国のEV革命の中、米国でも民主党政権が2期、4期と続くことになれば、バイデン大統領が表明しているEV化計画は実現の方向に向かうだろう。今、世界はコロナ禍の裏で確実に動いている!島国でコロナ禍で鎖国状態になった日本だけが、自動車先進国の中でEV化路線に完全に乗り遅れてしまった。一部のEV愛好者を除き、2年程前に誰がこんな状況を予想していたのであろうか?未だに信じられないが、この1年のEV化革命の動きは驚きだ。HV化を謳歌していた日本だけがEV革命から取り残されてしまったのだ。
2019年まではHV化・軽自動車化で70%シェアを誇る日本は、クルマの排出CO2量では世界の最優等生であった。変化を好まない日本人の誰もが2030年までこのまま経過していくと考えていた。第2章でも説明したように、2030年にはEV化無しでパリ協定CO2削減率26%をクルマでは達成できる。2030年にEV化を10%まで高めれば、CO2削減率は30%を超える。欧州、米国、中国はEV化率20%以上、大幅な販売台数制限等を行わなければ、パリ協定30%の達成は不可能であった。ところが、2020年世界は大きく変わり始めた。
この年、欧州では2021年規制95g/㎞が迫っていた。英国ジョンソン首相が2019年2月COP26でガソリン車、ディーゼル車、HVの新車販売禁止を5年前倒しして、2035年にすると表明。それに欧州各国、米国加州が足並みを揃える方向に動き始めた。さらに英国ではEV化を加速させるため、ガソリン車、ディーゼル車はさらに前倒しして2030年までに販売禁止、HVは2035年までに販売禁止すると表明した¹⁾。世界一のクルマ市場ではあるが、クルマの排ガスによる大気汚染に苦しんでいた中国でさえも、2035年までにNEV化を50%以上にして残りはHV化を進めようとしている²⁾。これで2035年には中国で販売される新車は100%環境対応車となる。米国もバイデン大統領に政権交代して、トランプ政権下で眠ったふりをしていたGM社、Ford社が全社挙げてEV化路線に走ると宣言した。
これに対して、日本の各社は傍観していたわけではない。例えば、図4-10に2019年6月に発表されたトヨタ社の前倒し計画が示すように、電動化計画を2030年から2025年に前倒しして、ガソリン車を半分の550万台、HV・PHV450万台、EV・FCV100万台にしようとした。しかし、あくまでガソリン車、HV中心の構成である。世界のEV化革命を背中で感じながらも、緩やかなEV化計画である。商売としてHVが儲かる時にさっさと儲けようと考えていたのかもしれない。
トヨタ社を始めとして、日産社、ホンダ社は車両価格400万円、航続距離400㎞のEVがそんなに売れのものか、世界のEV化率は当面2%前後を推移する程度、と高を括っていたのかもしれない。ところが、HVを武器として持っていない欧米各社はEV化に対する力の入れ方、本気度が全く違っていた。各国の政府も燃費規制、そしてZEV規制、NEV規制というEVの販売を促進する台数目標規制も強化していった。さらには、欧州ではカンパニーカー制度、中国では多額な補助金制度、米国の政権交代したバイデン大統領が大きくEV化に拍車を掛けた。その結果、2020年には欧州11%、中国7%のEV化率で示されるEV革命が起きているのだ。それに対して、日本政府はEVを加速する台数目標も燃費規制強化も施行されていない。これでは日本メーカーはぬるま湯に浸かり、相変わらず20世紀のエンジン熱効率向上に花を咲かせている。これではだめだと気が付き、EVを30機種も展開するとCEOが表明した米国GM社とは随分温度差がある。
リーフを華々しく発売開始して10年が経過した日産社も同じ状態にある。一時は世界第1位のEV販売台数を誇っていたが、今や6.2万台のEVを売りさばく程度の第14位EVメーカーになり下がっている。同型のZoeを中心に12.7万台のEVを販売して第7位に躍り出たルノー社とは好対照である。また、ホンダ社は初の量産EVであるHonda eを2020年10月に発売開始したが、450万円という価格の割に283㎞と航続距離が短いため、売り上げが全く伸びていない。要するに、日本の三大HVメーカーのEV化路線は、顧客が求めるEVを一日も早く出そうとする意気込もなければ、方向性も全く見失っている。
出典☛日経Automotive2019年8月号;P56 より加筆
ローカルベストは衰退への道!
日本でも大きな変化点になり得る時期はあった。2020年9月に安倍政権から菅政権に政権交代した時だ。だが新政権は安倍政策の延長路線であり、その機会を捨ててしまった。これではまずいと考えた官僚たちは、2050年までにCO2など温室効果ガスの排出をゼロとする⁴⁾、という目標を菅総理に宣言しさせた。そして具体的な事例として、2035年までにガソリン車の新車販売を禁止すると表明したのだった。欧州よりも5年遅い。これでは周回遅れと言われても仕方がない。結果的には、図4-10のHV化を柱とした、のんびりしたEV化計画を提案するトヨタ社を擁護する形となっている。どのメーカーもEV革命に対する危機感が持てない表明であった。
世界の最優等生国、日本が2030年頃には中国よりも遅れを取った自動車後進国の仲間入りする可能性が出てきた。トヨタ社はEV計画を全く明らかにしないまま⁵⁾、2020年12月FCVである、2020年12月FCVであるMIRAIのフルモデルチェンジを発表。イーロンマスクCEOから燃料電池は馬鹿電池⁶⁾、MIRAIは未来のクルマ、と揶揄されながらの発表となった。2021年1月にIT都市の実用実験としてWoven cityの着工が始まった。何か現状のHV販売による利益にしがみつき、2021年大々的に開発すべきと思われるEV開発に目をつぶって、2035年よりも遠い未来に目を向けながら現実から逃げているようにも見える。明日の仕事の基盤であるEV実行計画ができて、それからやっと明後日の理想郷の姿が描けるのである。
国内で400万台をEV化したら急激な電力不足を招き、国内の労働人口も減ると表明されているが、如何なものか?国内充電システムが心配でEV化率10%に抑えているのであれば、もっと積極的に欧州・中国にそして米国に販売すればいい。既に2020年でテスラ社は50万台、VW社は20万台のEV販売しているのだ。鶏が先か、卵が先かという議論となれば、EV化が進むと予想されてから、充電インフラの拡充をということになる。世界の大きな波に乗らず、国に水素ステーションの拡充を要求しながら、未来のクルマを年間数千台販売しているのは、一体何なのだろうか?欧州、中国が2020年でEV化率10%前後に来ているのである。2020年日本はEV化率0.7%という低レベルの自動車産業はギリギリのところ立たされているが、その状況を作ったのはあまりにもHVに依存し過ぎた結果ではないだろうか?今日と明後日の仕事をして、明日の仕事に労力を割かない日本の自動車メーカーとそれを擁護すべき日本政府に国力挙げてのEV化を再考して頂きたい。
VW社は2015年のディーゼルデフィートデバイス発覚から、5年で大きく舵を切り世界第2位のEVメーカーとなった。クリーンディーゼルが欧州シェア65%まで上り詰めた成果を見事に断ち切ったのである。中国はZEV規制の真似事と揶揄されながらも、NEV規制を着実に実行に移し、EV化率を7%まで引き上げてきた。自動車大国としての責任を果たしつつある。米国ではシェール革命の恩恵でガソリン価格が世界の1/3程度となり、ガソリンピックアップトラック、大型SUVの販売が8割を超えた現状ではあるが、何とかEV化革命の波に乗ろうとしている。この1年で世界は大きく動き、変わっているのである。
2020年の世界販売台数はコロナ禍の影響で前年比15%程度台数減となった。トヨタ社はグループで952万台⁷⁾となり、VWのグループ930万台を抜いて第1位に返り咲いた。トヨタ社単独でも10.5%減の869万台⁸⁾であった。しかし、これは過去の成果である。この中でトヨタ社は日本市場で145万台を販売している⁹⁾。つまり、世界販売台数869万台の17%程度が日本市場ということになる。17%の市場に合わせて、どうやって残りの世界市場を確保しようというのか?どうやって世界市場に調和させようとしているのであろうか?
図4-11に世界市場のEV化率推移予想例を示した。2020年欧州・中国のEV化率が高くなり、世界平均を2%前後から2倍の4%に上がってきた。それに対して、その1/2が米国、さらに1/2が日本という現状である。最近の各国政府、自動車メーカーのCEOの発言から、図4-11は納得できるEV化率推移であるように思える。世界市場のEV化率予想で、2030年日本が9%程度に留まるのに対して、欧米中は25-35%まで伸びていくと予想されている。日本市場はこのままの推移で行くと、2035年EV化13%、残り87%がHV化ということなる。日本のEV化率は世界平均予想の1/3である。中国の50/50と比較しても日本は大幅にEV化が遅れた国になり果ててしまう。HV化が現在の日本にとってローカルベストの道であったことは間違いなかったと思う。軽自動車化の道は素晴らしいかったと思う。ただし、HV化・軽自動車化という成功に浸る時間はないのである。世界中のどの技術でも例外なく過去の成功を断ち切ってきたところに新たな成功、革新が生まれる。これからは今日の仕事をする若い人たちと明日の仕事をする若い人たちが喧々諤々と議論しながら、日本独自の明日の道を切り開いていかないと日本の自動車産業を時代遅れにしていくのではないだろうか?そのためには、日本はどう戦略変更をしていけばいいのであろうか?今まさに、本当の意味で日本の自動車産業はギリギリのところに立たされていると思う。@2021.3.29記
出典☛日経Automotive2021年4月号;P71 より加筆
《参考文献および専門用語の解説》
1)「ガソリン車、ディーゼル車、英が2030年までに販売禁止、35年までにHVも」読売新聞@2020.11.18
2)「中国、35年に全て環境対応車 ガソリン車排除」JiJi.COM@2020.10.28
3)日経Automotive2019年8月号;P56
4)安倍政権時代にはパリ協定での日本のCO2目標は、「2013年比で2030年26%低減、2050年80%低減」であった。ところが、世界動向から2020.10.26に行われた菅総理の所信表明演説では「2050年までにCO2をゼロにする」と宣言された。
5)2021年4月20日の上海モーターショー2021でトヨタは2025年までにbZシリーズ7車種を含め、2025年までにEV15車種を展開すると発表。GM社の2025年までにEV30車種展開を意識したか?ホンダ社も2026年春までにEV10車種を投入すると発表。売れるのか売れないのかを別にして、日本メーカーもやっと重い腰を上げた。
6)後述するが、水から水素を得るには膨大な電気エネルギーが必要。さらに、圧縮して水素タンクに入れるのにまたエネルギーが必要。概算でFCVでは元のエネルギーを半分以上捨てることになる。だから、イーロンマスク氏は馬鹿電池と呼んだと言われている。@「EV化に懸念」トヨタ自動車の「水素・FCVのこだわり」が「戦略的間違い」と考えるこれだけの理由@2021.1.6
7)「2020年世界販売、トヨタが5年ぶりに首位、前年割れも952万台」SankeiBiz@2021.1.29
8)「車の世界販売台数、15.9%減」あなたの静岡新聞@2021.1.28
9)「20年の国内新車販売台数 4年ぶりに500万台割れ」日本自動車会議所@2021.1.12
欧州CO2規制はTank-to-WheelからLCAへ
欧州、中国が中心となってクルマのCO2を削減するため、2020年遂にEV化革命が始まった。計算上は日本が生み出したHV化でもCO2を30%削減するには十分ではあるが、それは日本側の話。欧州・中国・米国はEV化に大きく流れ始めた。理由は単純にEVに賭けた?ということではなく、日本のHVに独占を許したくないという欧州の野望・戦略が見え隠れする。結果的には日本はHVを主力とするがゆえに、世界のEV化路線に大きく乗り遅れた。だから日本はどうするのか?ということだ。CO2削減の話とは別に、日本の自動車産業は大変なことになる。このままだと、日本は2035年まで中国市場へのHV供給国になり下がってしまう。目先にCO2削減削減に向かって、HV化を推進してきた日本。気が付くと世界はHVを通り越してEV革命を起こし始めている。
戦後日本が高度成長を遂げたように、先ずは謙虚になってベースに欧州戦略を取り入れることだ。やはり、大陸民族は演繹的な戦略に長けている。日本のような島国の民族では帰納的な方法しか考え付かないのかもしれない。これが当然強みとして表れてきたのであるが、今回は裏目に出てしまった。一段一段上りながら、HV化を経てEV化と考えていた。ところが、欧州ではガソリン車➡ディーゼル車➡EVとしている。HVを間に挟んでいない。明らかに、日本を意識した戦略だ。
ではどうするのか?先ずは欧州が考えている戦略を一つ一つ確認していこう。図4-12に欧州で有力な自動車の環境評価団体Green NCAPが提案するCO2排出量規制のロードマップを示した¹⁾。2020年まではTank-to-WheelのCO2排出量を規制してきた。最近では2021年95g/㎞規制がそれにあたる。これによれば、EVのCO2排出量はゼロと評価されるため、EV革命が起きたと考えてもいい。
出典☛日経Automotive2020年11月号;P14 より加筆
Well-to-WheelのEV評価では、発電時CO2抑制がポイント!
そして、欧州は次を考えた。2025年を過ぎた頃、Tank-to-WheelのCO2からWell-to-WheelのCO2の規制値に替えていくのだ。図4-13にWell-to-Wheelによるクルマの効率例を示している。エンジン車の場合、効率を上げるにはただひたすらエンジン正味熱効率ηを向上させる以外に道はない。HVも同様である。結果的に日本のHV用エンジンの熱効率ηは40%を超えるようになって来た。50%を目指すには相当なコストアップとなりそうである。一方、EVの方はといえば、発電効率を向上して発電時発生するCO2を抑えることである。これには原子力、そして再生エネルギーである太陽光発電、風力発電が非常に有効である。
出典☛「電気自動車が一番わかる」石川憲二@技術評論社 より加筆
欧州の電源構成は原子力、再生エネルギーが40%~100%!
図4-14に2019年時点の国別発電構成を比較した事例を示した。明らかに、欧州では原子力発電、再生エネルギー発電が主力となっており、40~60%となっている。フランス、スウェーデンでは100%近い。それに対して、中国、インド、日本は30%程度であり、米国でも40%弱となっている。これから分かるように、欧州の電源構成による電力を使用すれば、EV効率が高く、EV展開に非常に向いた市場ということが出来る。したがって、Well-to-WheelのCO2を考える時、如何にCO2を抑えた発電方法を多く取り入れるかが肝要となる。そういう意味では現時点でアジア、米国は発展途上国と言わざるを得ない。
また、欧州ではEV化を加速するため、2020年7月欧州委員会が2030年までに水素エネルギー普及に約50兆円規模の巨費を投じると発表¹⁾した。内訳は水素生成の水電気分解装置に最大5.2兆円、同装置と太陽光発電、風力発電との接続に最大42兆円となっている。
さらに、欧州では追い打ちをかけるように、2030年以降にWell-to-WheelのCO2排出量からLCA²⁾の排出量規制に変えていくという発表をしている。欧州はエンジンメーカー任せではなく、EUとして巨額な設備投資、CO2規制の進化により、EV革命を強く擁護している。この点が掛け声だけの日本政府の動きと大きく異なる点である。@2021.4.2記
出典☛日経Automotive2021年4月号;P69 より加筆
《参考文献および専門用語の解説》
1)日経Automotive2020年11月号
2)LCA☛Life Cycle Assessmentに略。2030年を想定し、自動車のライフサイクルでCO2排出量を評価するLCAの議論が欧州で始まった。ある製品のライフサイクル全体(資源採集☛原料生産☛製品生産☛流通・消費☛廃棄・リサイクル)から環境負荷を定量的に評価する手法である。
LCA評価のポイントはグリーン電力!
前節では欧州Geen NCAPがCO2排出規制のロードマップの中で、Tank-to-Wheel@現在➡Well-to-Wheel@2025年➡LCA@2030年 と評価方法を変えていくことを説明してきた。ここではその中に秘められた欧州戦略について説明していこう。Tank-to-WheelからWell-to-Wheelでの評価に変えていくと、発電時に発生するCO2量を減らすことが必要となってくる。そのためには再生可能エネルギーによる発電量を増やすことが重要となり、欧州では以前から力を入れてきた経緯がある。その結果、前節図4-14に示したように、欧州各国ではアジア、米国地域よりも発電時のCO2量は明らかに低くく、再エネで発電された電力はグリーン電力¹⁾と呼ばれている。したがって、中国、インド、日本、米国など火力発電の割合が多い地域と比較すれば、欧州のグリーン電力を供給したEVは中国などで走らせている同じEVよりも、Well-to-WheelでのCO2はより小さく、よりクリーンなEVということになる。欧州地域で走らせるEVは、発生CO2を大幅に下げられるという点で大きく差別化が図られるということになる。
またさらに、図4-15に示したLCAによる法規制に変えようとしている。発電力の次はクルマを生産する際の資料採取から生産までのCO2発生量、そして廃棄時のCO2量、さらには再利用をどれだけするのか、が一製品のライフサイクルの中で重要なポイントとなってくる。具体的にはEVの電池であるLiBに関わる発生CO2、そしてEVの部品製造、組み立てに関わる電力の発電によるCO2を如何に下げるのかが重要となる。
日本で走らせたEVはCO2排出量が多い❔
図4-16に2030年日本と欧州でLCAによる発生CO2量を推定したデータ²⁾を示した。面白いことに日本と欧州では同じ車を走らせてもLCAによる発生CO量に差が出てくる。顕著なのは高効率HVとEVの比較である。欧州ではEVの方が当然HVよりも発生CO2量は小さいのに対して、同じEVを日本で走らせるとHVよりもCO2発生量が多くなるという計算結果になっている。日本の発電事情、LiBの生産事情からすると、結果的に欧州で走らせたEVはより地球にやさしいという結果である。詳細な計算内容は不明であるが、何となく納得がいく数字である。では、なぜ欧州はここまで拘ってLCAによる評価を取り入れようとしているのか、ということである。
出典☛日経Automotive2019年10月号;P48 より加筆
グリーン水素生成はアジア企業封じ込め策❔
2020年後半に始まった欧州のEV革命は、2030年を過ぎても続きそうな傾向である。クルマのCO2削減に対してEVに賭けるしかないというのが欧州全体の考え方であり、今はそう動いている。ところが、大きな問題が一つある。図17に示したように、EVを製造すればするほど、潤うのは実は部品を供給しているアジア企業ということになっている。例えばEVの心臓部である電池製造は、中国CATL、BYD、日本パナ、韓国LG Chem、SDIなどで世界の90%以上も占めている。EVの部材もメーカーもアジア企業頼りとなっている。
EV化を加速すればするほど、欧州企業の存在感は薄れ、雇用は減少していくという構図になりつつあるということだ。特に雇用が減るのは大問題となる。そこで、ここからが欧州戦略が凄いところだ。まず以前まで中東に頼っていた電力を水力、風力を基本にした再エネの大幅導入により、グリーン電力を供給してきた。その後、余った電力は水分解装置で水素として貯蔵していくことにした。グリーン水素の誕生である。再エネによる余剰電力はこれまでは殆ど捨てていたことから、これからは水素により貯蔵していくことにしたのだ。したがって、このグリーン水素の生成に2030年までに50兆円規模の巨費を欧州全体で投入することにした。
LCA評価では製造時、発電時のCO2量が加算される。したがって、再エネによるグリーン電力を使ってEV車両を組み立て、LiBを製造することが肝要となって来る。欧州製LiBにも欧州製EV本体もグリーン電力を使うことになれば、アジア企業に対してLCAによるCO2削減という意味で競争力が高くなる。そして、欧州に車両や電池の向上を設ける必然性が生まれてくる。要するに、EV化を加速しながら、欧州の雇用も確保できるという訳だ。この点が一国で動く日本、中国、米国といい気な違いである。
例えば世界最大の電池メーカとなった中国CATLは独テューリンゲン州エアフルトでLiBの生産を2021年から開始している³⁾。また、Bosch社はCATL社に恐れをなして自社生産を断念したが、VW社は果敢にも2023年から自社電池工場によるLiB生産を始めると発表⁴⁾した。いよいよ、Well-to-WheelからLCAによるCO2排出規制を踏まえて、欧州が考えている水素社会を徐々に作り始めた。欧州はアジア企業の独占を防ぐべく、欧州全体で戦略的に動き始めているのだ。@2021.4.15記
出典☛日経Automotive2020年11月号;P12 より加筆
《参考文献および専門用語の解説》
1)風力・太陽光・バイオマスなどの再生可能エネルギーによって発電された電気のこと。@デジタル大辞泉
2)日経Automotive2019年10月号;P48
3)「CATLが独に工場建設 欧州に向けて拡大するEVメーカー、吉と出るか」36KrJapan@
2021.3.6
4)「欧州に計240kWhの工場建設。電池コスト半減目指す」日経XTECH@2021.3.22
グリーン電力をグリーン水素で貯蓄する!
再生エネルギーにより発電されたグリーン電力を生かすためには、その出力変動を吸収する電力貯蔵システムの大量導入が必要となってくる。それさえあれば、必要なだけ発電するのではなく、大量の余剰電力を発電することが出来る。その貯蔵システムは、充放電時間や出力のオーダーにて4種類に大別できる¹⁾:
➊数秒以下の電力需要に対応できる電気2重層キャパシター
➋1-2日以下で対応できる蓄電池
➌需要の大きな変動に短時間で対応できる揚水システム
➍水を電気分解して製造するグリーン水素システム
前節では、最後のグリーン水素システムについて簡単に触れた。
改めて、グリーン水素とはその製造過程を含めてCO2の発生量がほとんどない水素のことをいう。水素は現在でも大量につくられているが、その多くは図4-18右に示したように、水蒸気改質法、部分酸化法という方法でつくられている²⁾。これらの方法では水性ガスシフト反応の際、石炭、天然ガスに含まれる炭素分がCO2として大量に排出されてしまう。そこで、石炭原料でつくられる水素をブラック水素H2、天然ガスが原料としてつくられる水素をグレー水素H2と呼ばれている。一方、図4-18左に示したように、グリーン水素H2は再生可能エネルギーから発電されたグリーン電気を用いて、水を電気分解することで得られる。その際発生するのは、酸素だけである。再生エネルギーによるグリーン電力はグリーン水素として蓄えられるのだ。
出典☛「グリーン水素でなければ意味がない」@タガギチ技術士事務所 より加筆
グリーン水素から合成液体燃料e-fuelを生成!
さて、余剰電力は水素として蓄えられた後、どう使うか?である。一般的には、1)燃料電池として電力に戻す、2)水素エンジンの燃料、などがある。ところが、今欧州を始めとして日本でも注目され開発されているのが、グリーン水素を使った合成液体燃料e-fuelの生成である³⁾。
図4-19にその生成過程の事例を示した。合成液体燃料CnH2n+2を生成するためには、先ずは大気中のCO2からCOを取り出す。次に再生エネルギーで水を分解してできたグリーン水素H2を生成する。このCOとH2で合成燃料を生成するのだ。
出典☛「トヨタ・日産・ホンダが本腰、炭素中立エンジンに新燃料e-fuel」日経XTECH@2020.7.3 より加筆
液体燃料CnH2n+2は、図4-20に示すように、2段階のプロセスを経て生成される。第1段階では大気中の温暖化ガスCO2をCOに還元する逆水性ガスシフト反応⁴⁾となる。CO2とクリーン水素H2を触媒である酸化鉄、白金などを用いてCO2を還元し、COとH2Oを生成する。
第2段階として、フィッシャー・トロプッシュ法⁵⁾(Fischer-Tropsch Process)と呼ばれている化学反応で第1段階で得られたCOとグリーン水素H2から触媒反応を用いて、液体燃料CnH2n+2を合成していくのである。これらの化学反応で合成燃料である、オクタン、セタンなどが生成される。
出典☛「フィッシャー・トロプッシュ法」@Wikipedia より加筆
だが、e-fuelのコストはガソリン燃料の10倍と高い!
この合成燃料は、大気中のCO2とグリーン水素からグリーン電力による触媒反応で得られるため、カーボンニュートラルを実現していることになる。つまり、従来のエンジン車、HV、PHVで運転してもLCAのCO2排出量の大半を占める走行分のCO2はゼロということになる。さらに、現有の燃料輸送車、燃料スタンドがそのまま使えるということだ。
ただ、最大の課題はその生成コストが高すぎるということだ。現在ガソリンは原価が50円/L程度であるが、合成燃料では10倍の500円/L程度になるという。理由は設備費もさることながら、第2段階のFT反応に大量の電気エネルギーが必要とされることだ。欧州も日本もその生成研究に本腰を入れ始めた。
これがガソリン価格と同等になれば、欧州でのエンジン搭載車、特に大型乗用車のディーゼル車を救うことが出来る。これにより、大衆車である小型車は電池容量が少ないEVでLCAによるCO2の排出量を低減していく。一方、中大型車はEV化と平行して従来のエンジン搭載車にe-fuelを充填してLCAによるCO2を低減していくというシナリオが描けるのである。これにより、LCAによるCO2評価が良くない、電池容量が大きな中大型車のEV化を当面進めなくてもいい。また、プレミアムカーである米国Tesla社のEVを抑え込むことも出来るのである。
全く同じ事が日本にも言える。欧州と同じく、水素社会に国が巨費を投入して水素社会を作り上げることにより、小型車はEV、中大型車はe--fuelを使ったHVでクルマによるCO2を限りなくゼロにして、カーボンニュートラルな社会が実現できるのである。欧州と日本の大きな違いは、実現しつつあるのか、実現しようと考えているかである。@2021.4.17記
出典☛「トヨタ・日産・ホンダが本腰、炭素中立エンジンに新燃料e-fuel」日経XTECH@2020.7.3 より加筆
《参考文献および専門用語の解説》
1)「走り出したCO2ゼロ行きの列車、次世代蓄電池と水素が両輪」日経XTECH@2020.12.21
2)「グリーン水素でなければ意味がない」takagichi.com@2020.10.16
3)「トヨタ・日産・ホンダが本腰、炭素中立エンジンに新燃料e-fuel」日経XTECH@2020.7.3
4)逆水性ガスシフト反応 (reverse water gas shift (RWGS) reaction) とは二酸化炭素(CO2)を水素(H2)と反応させ、一酸化炭素(CO)に変換する反応である。反応式は以下の通り:
CO2+H2⇄CO+H2O(ΔH=+41kJmol−1)
また単に逆シフト反応といわれることもある。一方、ブラック水素、グレー水素は水性ガスシフト反応を用いて水素を生成している。
5)一酸化炭素と水素(合成ガス)から触媒反応を用いて液体炭化水素を合成する一連の過程のこと。触媒としては鉄やコバルトの化合物が一般的。この方法の主な目的は、石油の代替品となる合成油や合成燃料を作り出すことである➡「フィッシャー・トロプッシュ法」@Wikipedia
日本は2030年度低減目標を変更:26%➡46%?
米国主催の気候変動問題に関する首脳会議(サミット)が2021年4月22日、オンライン形式で開幕した。図4-22に示すように、各国首脳らが演説する中で、日本の菅首相は2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減するとの新たな目標を表明した。これまでの目標である2013年度比26%削減から大幅引き上げになることから、首相は「決して容易なものではない。トップレベルの野心的な目標を掲げることで、我が国が世界の脱炭素化のリーダーシップをとっていきたい」と意欲を示している¹⁾。
確かに米国バイデン大統領も2005年比で50-52%削減、欧州は1990年比で55%以上、中国は2005年比で65%以上削減するとの表明をしている。2020年後半から一気に電動化革命の時代に入った欧州ですら、1990年比で55%なのである。日本の2013年比46%削減が如何に厳しい目標か、お分かりいただけると思う。ただし、日本政府は各部門での目標と具体的な削減策については未だ表明していない。地球温暖化にブレーキを掛けるには、2020-2030年の活動結果が重要で、2050年の温度上昇を2℃以下に抑える目標に大きく近づくこととなる。日本人として誇らしいが、何をどう政府が支えながら、国民に協力を求めていくのか、今から注目・期待している。コロナ対策のように、一方的に国民、企業に押し付けることはあってはならない。
では2030年度46%削減が26%に対してどの程度大変なことなのか、クルマの電動化で具体的に説明してみよう。
出典☛朝日新聞朝刊@2021年4月23日 より加筆
2030年46%削減に対して、EV化率は50%必要⁉
まず、2030年度26%削減時の目標2030年平均CO2を算出してみよう。節2-8では削減率30%で目標値を算出したが、今回は26%で算出し直そう:
❏目標平均CO2@2030年=(1-0.26)✖180✖6000/6300=126.86≒127g/㎞
では、新目標46%では;
❏新目標平均CO2@2030年=(1-0.46)✖180✖6000/6300=92.57≒93g/㎞
では、EV化率を2030年に何%まで引き上げなければならないか、計算してみよう。節2-8ではクルマの寿命を15年として2030年に保有するクルマは2016年~2030年に販売されたクルマの総台数とした。また、2016年~2020年の実平均燃費から平均CO2を算出すると、
❏HV=103g/㎞、軽自=119g/㎞、GV=140g/㎞
であった。一方、EVはTank-to-Wheelでは、EV=0g/㎞とした。
また、HV、軽自、GVの台数比率は、ここでも節2-8に倣って、
❏HV=33%、軽自=37%、GV=30%
とした。したがって、このままの状態で2030年を迎えた場合、平均CO2は節2-9で示したように次のように計算される:
❏平均CO2@2016-2030年
={103✖0.33+119✖0.37+140✖0.30}✖6300/6000=126g/㎞<127g/㎞
したがって、削減率が26%であればEV化は必要なかったのだ。
ところが、新目標値46%に対しては目標平均CO2の値は93g/㎞という厳しい値となる。
POINTはどうやってEV化率を上げていくか?である。ここではHVシェア33%はそのままにして、ガソリン車である軽自動車、GVの割合をそれぞれ5%ずつ、全体では10%ずつEV化率を上げていった場合の平均CO2を算出していった。例えば、2030年EV化率10%とは
❏HV=33%、軽自=37➡32%、GV=30➡25%、EV=10%
のことを言う。図4-23に2030年のEV化率を上げた時、平均CO2がどの程度下がっていくのか計算した結果をグラフ化した。これから分かるように、実に2030年にはEV化を50%、2016-2030年の平均EV化率を25%にしなければ、削減率46%を達成することが出来ないという結果になった:
❏平均CO2@2016-2030年
={103✖0.33+119✖0.12+140✖0.05}✖6300/6000=92g/㎞<93g/㎞
2030年EV化率50%とはHV、軽自、GV、EVの各シェアが、
❏HV=33%、軽自=37➡12%、GV=30➡5%、EV=50%@2030年
というクルマ社会を10年後の2030年には実現しなければならないということだ。新車販売のガソリン車が67%➡17%と1/4、EVが何と50%になってしまうクルマ社会を10年後の2030年に向かえなければならないのだ。温室ガス46%削減という目標は、軽自動車とHV中心の日本社会に神風が吹かなければ、到達できないレベルなのである。したがって、国(政府)、クルマ会社、電気会社、燃料供給会社、そしてユーザーである国民がどこかで折り合っていくことが重要となる。@2021.5.7記
《参考文献および専門用語の解説》
1)読売新聞オンライン@2021.4.13
さて、EV化率上昇に欠かせないのは、Well-to-Wheelの観点からも発電CO2量を削減することが最も肝要となる。図4-24には2015年時点で2010年に評価した電源別CO2発生量がまとめてある。2013年実績では震災直後の原発稼働の中止もあって、火力発電割合は87.7%と90%近い数字を示していた。それが2020年実績では再エネ発電割合が21.7%と増加して火力発電を74%まで抑え込んでいる。平均CO2量も623➡550ℊ/kWhと12%削減出来ている。ただ、従来目標では32%程度であったのが、今回46%と大きく削減目標が上げられた。従来目標割合を参考にしながら、本稿では独自に目標電源別割合を仮定してみた。
石油火力発電、原子力発電の割合をそのままにして、他の火力発電割合を下げ、再エネ発電割合を増やして平均CO2量を算出してみた。具体的には再エネ発電割合を従来の22➡35%と上げ、その分火力発電割合をそれぞれ20%まで減らしてみた。再エネ発電割合は7年後の2020年実績で既に21.7%まで達成できているため、同じ上昇割合でいけば35%は可能な数値である。
結果的には黄色で示した新目標に変えることにより、発電CO2発生量は2013年比で47%削減できることが分かったのである。
出典☛「原子力・エネルギー図面集(2015 2-1-9)」@電気事業連合会 より加筆
2030年再エネ発電割合は35%必要!
図4-24において電源別割合の新目標によれば、火力発電割合を2020年実績74%から2030年には43%(石炭火力20%、石油火力3%。LNG火力20%)に削減することになる。これは世界的に見てどのれべるなのであろうか?図4-25には2019年時点でまとめた国別の電源構成を示している。デンマーク、フランス、スウェーデンを除けば、45~60%が火力発電という構成になっている。しかしこれはあくまで2019年時点の数字である。日本が2030年で火力発電割合43%というのは決して少ないとはいえない。むしろ、2030年でもドイツ、英国よりも10年遅れていると言わざるを得ない。そして、欧州はグリーン電力、グリーン水素に力を入れている。当然日本もそれに見習うべきである。そこで、次に来るべきEV化社会(といっても2030年ではあるが)を迎えるにあたって、日本は何をすべきなのであろうか?国(政府)、クルマ会社、電力会社、燃料供給会社、そして国民がクリーン電力社会、グリーン水素社会に向かって、今何をしなければならないのであろうか?@2021.5.7記
出典☛日経Automotive2021年4月号;P69 より加筆
菅総理が表明したように、日本が脱炭素化のリーダーシップを取っていきたいというのであれば、国(政府)、クルマ会社、電力会社、燃料供給会社、そして一般国民が是非ともしなければならないことがあると思う。そして、これらが同時に進行・実施していかねば効果も薄く、永続的に住みやすいグリーン電力社会、グリーン水素社会は遠のいてしまう。日本人一人一人が日本をより住みやすい国にして国際目標であるSDGs¹⁾に到達し、世界のリーダーシップが取れるように後編の最後にお願いしたいことがある。これまでの検討結果から、主な施策は次に示すようだと考えている:
➊国(政府)へのお願い
今回サミット表明のために、従来脱炭素化のための予算を1兆円➡2兆円に積み上げるように菅総理が指示したと報道²⁾されているが、如何にして確保していくのか疑問である。もし、毎年2兆円規模の投資をしていくと仮定すると、2030年には20兆円規模となる。市場規模比=保有台数2.21億台@欧州/0.63億台@日本=3.5倍を考慮すると、欧州の50兆円を超える70兆円規模の投資に相当する。これは是非とも実現して頂きたい。具体的にはこの予算を次の開発・投資に充てて頂きたい:
1)再エネ発電設備投資・・・太陽光発電、風力発電設備の充実
2)水素生成の水電解装置およびグリーン水素装置とグリーン電力装置との接続
3)合成液体燃料の開発費援助
4)EV購入補助費(≒50万円)と各家庭のEV電源工事費(≒5-10万円)の国費負担
➋クルマ会社へのお願い
HV化、軽自動車化で進めてきた路線を一気にEV化路線に切り替えて頂きたい:
1)HV、軽自動車、GVの新規開発を2023年頃までに終了。ただし、現行のパワートレインはそのままの現状モデルで生産続行。
2)軽自動車、GVのEVモデルの開発にリソースを集中。各社共用することを考慮したモータ駆動部の開発を共同会社で開発。できるだけ早い時期に生産開始。そして2025年新車販売のEV化率25%、2030年50%を目指す。価格目標は国からの補助費を除いて、小型EVで150万円(軽自動車相当)、中型EVで200万円(中型GV相当)程度とする。この段階でドリームランド建設?に必要な2兆円利益は諦める。(➡そうでないと、クルマ会社は確実にApple社などに負ける。競合はクルマ会社ではない!)
➌電力会社へのお願い
国からの開発費補助を基に、2030年までに火力発電割合を43%に減らし、再エネ発電を35%まで増加させる設備充実を行って頂きたい。1)、2)は国との共同開発となる:
1)再エネ発電設備投資・・・太陽光発電、風力発電設備の充実
2)水素生成の水電解装置およびグリーン水素装置とグリーン電力装置の接続
3)電気代の段階的値下げ・・・24円/kWh☛12円/kWh³⁾⁴⁾@2030年。
(2020年米国、韓国料金レベルに追いつく)
➡電気料金値下げは国民にとって最大メリット!EV化もこれで動く!ただし、中国は習近平主席が2020年国連総会で原子力と再エネだけで2060年までにCO2排出量ゼロにすると表明。これにより、2030年代には3円/kWhになると予想されており、日本もまだまた下げられる要因は残されている。
➍燃料開発会社へのお願い
国からの開発費補助を基に、2030年でもHV・軽自動車・GV合わせて50%シェアを持つため、ガソリンエンジンは生き残る。したがって、カーボンニュートラルであるグリーン水素から生成される合成液体燃料の開発・供給を行って頂きたい。目標価格は現在のガソリン価格と同等の50円/L程度(現在の500円/Lは論外!)。税込みの一般価格は100円/L程度。これにより、生き残ったガソリンエンジンが救われる。日本が長年望んでいた中東原油依存から脱却できる瞬間である。
➎一般国民へのお願い
日本国民は新車検討時にはEVを優先して購入していく。これまでのEVの三悪の中で「価格」、「充電場所」については下記のごとく改善される。なお、「航続距離」、「充電時間」についは国民の方で十分妥協できるレベルと考える。以下はEVの具体的な特徴と利点である:
1)現行軽自動車価格150万円、中型GV250万円に対して、小型EV150万円(-補助費50万円)、中型EV200万円(-補助費50万円)とガソリン車に比べてより低価格なクルマを手に入れることが出来る。
2)EVの1㎞当たりの電気代は1例ではあるが、次のように計算される⁵⁾:
➡EV(日産リーフ@40kWh)料金=24円/kWh÷7㎞/kWh=3.4円/㎞@2020年
EV(日産リーフ@40kWh)料金=12円/kWh÷7㎞/kWh=1.7円/㎞@2030年
➡これに比較して従来のクルマでは1㎞当たりの燃料代は、
HV料金=150円/L÷22.5㎞/L=6.7円/㎞
軽自料金=150円/L÷19.4㎞/L=7.7円/㎞
GV料金=150円/L÷16.5㎞/L=9.1円/㎞
EVの電気代は、現在の電気料金24円/kWhでもガソリン車燃料代の1/2~1/3程度になる。
3)自宅の充電工事費が無料(国からの補助費)。
4)充電時間は2020年時点家庭200V電源で5~8Hr⁶⁾
(夜間に自宅時充電すれば問題なし)
5)ただし、EVユーザーは航続距離は現在の400㎞ではなく、遅々として進まないポストLiBの開発現状を考慮して、150㎞程度で受け入れる。その結果、メーカーとしてはLiB費用が半減以下抑えられ、EV価格をかなり下げることが出来る。片道10㎞、往復20㎞程度のスーパー、病院などは、150㎞の8割充電で週6回、120㎞の移動ができる。そもそも自宅で充電できれば、スマホ同じ感覚で毎日充電することに違和感はなくなっている。したがって、4)、5)をユーザーが受け入れれば、1)~3)のメリットを受けることが出来る。このことからEVはユーザーに、特に地方の高齢者に急速に受け入れられていくと考えらる。
以上のように、それぞれが一歩譲ってより良い社会を創ることに邁進していけば、2030年SDGsのいくつかの目標を達成することが可能となる。つまり、図4-26に示したグリーン電力社会とグリーン水素社会を我々日本人は2030年には迎えられることができると考えるのである。@2021.5.11記
《参考文献および専門用語の解説》
1)SDGs☛持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいる。@「SDGsとは?」外務省ホームページ
2)「令和3年エネルギー対策特別会計の概要」@環境省ホームページ➡令和3年度予算は補正予算が組まれて、やっと2,100億円程度。
3)「電気代が高い国はどこ?」インズウェブ@2021.3.9
4)「電気料金の比較」@経産省資源エネルギー庁
5)「EVの電費」ev-efficiency@2020.5.3
6)「EVの気になる充電!時間や場所、料金は?」エネチェンジ@2021.2.10
第4章ではこれまでのクルマCO2低減状況、EV化推進のためのポストLiB開発状況について触れてきた。CO2大幅低減のためには、EV化が必須であることを理解して頂いたと思う。だが、ポストLiBの開発は中々進まず、EV三悪である価格、航続距離、充電方法・時間が大幅に改良されなければ、EV化は進まないだろうというのが大方の見方であったし、私自身もそう思っていた。事実、最近まで世界のEV化率は、2018年2.1%、2019年2.2%と低レベルを推移していた。
ところが2020年後半に入ると、欧州では2021年95g/㎞規制もあって、4-2節で述べたように大きく進み始めた。単月の欧州EV化率は一気に10%を超える!というのが欧州の今の姿になった。世界で2019年当時最もEV化が進んでいた中国(EV化率5%弱)では、NEV規制導入により2020年には7%程度までEV化率を伸ばして欧州を追従しようという動きになってきた。一方、テスラ社を擁する米国はEV化率1%前後であったが、バイデン政権に変わってゼロエミッション投資を大きく推進するようになった。これに便乗して心変わりしたGM社は、2025年まで30車種のEVを販売するとバーラCEOは2021年1月に発表した。
一方これに呼応するかのように見えた日本でも、菅首相は2021年4月に2030年温室ガス低減目標を26➡46%に上げた。この意味するところは4-10節で述べたように、現在日本のEV化率を直線的の増加させて2030年には50%にすることに相当する。ところが、クルマメーカーの反応が鈍いのである。HVと軽自動車に毒されたのか、EV三悪が改良されていないのにEV化推進は難しいという態度を取っていた。HVと軽自動車によるCO2削減の成功体験がクルマメーカーのみならず、消費者にも行き渡っていた。これではまずいと思ったのか、ホンダ社、日産社はEV車種を増やすと発表しているが、具体的な車種数については不明である。さらに、ホンダ社は2040年には「脱ガソリン車」に全面移行¹⁾を表明したが、その道のりは全く不明である。そして、肝心のトヨタ社が問題なのだ。未だHVに引きずられて、2025年までにEV車種を10%に増やすが、あくまでHVが中心。そうでなければ、雇用が維持できないとしている。そのため、4-8節で触れたe-Fuelに賭けるというのが豊田章男社長の2021年4月22日定例会見内容であった。
要するに、世界の急激なEV化の動きに対して、日本のメーカーは全く付いて行けないし、ましてやリーディングカンパニーになることなど夢のまた夢ということになる。あまりにもHV依存度、軽自動車依存度が高い。EV化率50%といっても残りの半分は未だガソリン車、HVなのである。半分は今のままの雇用体制でいいのである。そして残り半分はEV化による仕事量の変化だけを検討すればいいのである。最悪、日本のクルマメーカーは世界シェアが下がるのでは?という事態を何故考えないのか、不思議である。このままでは、日本のクルマメーカーは世界市場、中国、米国、そして欧州市場から見放されてしまうのである。大いに危惧している。
4つの章、全37節で言いたいことは、いま将に予期できなかった電動革命であるEV化が世界の主要国で始まっているということだ。そして、前節4-11で提言した内容を実行に移せば、日本の消費者にとっても意味あるEV化が実現でき、雇用も守れ、世界の冠たる自動車立国になり続けることが出来るのだ。是非とも5つのお願いである提言を取り入れて、EV化を大きく進めてもらいたいものである。
ところで、最後に今更ながらであるが、ブログ表題「おらが村にEVが走る!?」を説明させてもらいたい。高齢者の人口は、2020年65歳以上の割合は28.7%であり、2030年には31.2%と予想されている²⁾。つまり、私も含めて10人に3人が65歳以上になっているのである。今回のコロナ禍で思い知ったように、クルマという移動手段がなければ、地方で暮らす日本国民は生活が成り立っていかない。要するに、病院、スーパーなどに自由にいけなくなるのである。図4-27にガソリンの給油所数の推移³⁾をグラフで示している。また、図4-28には過疎市町村の給油所数推移⁴⁾を表で示した。これから分かることは、1998年➡2019年の間に給油所数は3万カ所を切って、半分に減少している。そして、その影響は過疎市町村で大きく、給油所3ヵ所以下の地域は300以上の市町村となっている。病院、食料品店に行こうとすれば、クルマが必須になってくるが、ガス欠したら生命線が断たれてしまうような状況にいつでも陥ってしまうのである。
したがって、自宅の200V電源で充電できるEVが低価格で手に入れば、高齢者にとって非常に安心なのだ。ガソリン代よりも低価格な電気代は年金暮らしの高齢者にとって、EVは優しい移動手段なのだ。自宅200V電源で充電できれば、充電頻度は多くなるが、航続距離が短くてもほとんど問題にならない。だから、4-12で述べた5つのお願いである提言内容は重要になって来る。実施に当たっては国、クルマメーカー、電力会社、そして消費者の4者の歩み寄りが必要となる。そんな中で築き上げるEV社会を日本が先駆けて是非とも実現して頂きたいと思っている。そして地方に行けば今の軽自動車に変わってEVが走っている状況を時折思い浮かべる次第である。将に「おらが村にEVが走る!」社会を築いて頂きたいと切に願うばかりである。了 @2021.5.30記
出典☛「ガソリンスタンド数や急速充電スタンド数の推移を探る(2020年公開版)」YAHOO!JAPANニュース@2020.8.30
出典☛「2020年1-10月ガソリンスタンドの倒産状況」東京商工リサーチ@2020.11.12
《参考文献および専門用語の解説》
1)朝日新聞朝刊@2021.4.26
2)「高齢者の人口」@総務省統計局ホームページ
3)「ガソリンスタンド数や急速充電スタンド数の推移を探る(2020年公開版)」YAHOO!JAPANニュース@2020.8.30
4)「2020年1-10月ガソリンスタンドの倒産状況」東京商工リサーチ@2020.11.12