しばらくは、Tank-to-WheelのCO2議論に!
「クルマのCO2低減」というと何か難しく聞こえるが、クルマの燃費低減のことを指している。燃費と言えば、一般にはクルマの燃費を意味するが、当然エンジン単体の燃費である燃料消費率(gr/kWh)も専門家ではよく使われる燃費指標だ。これは1kWh当たりのエンジン仕事が燃料消費量何グラム必要なのかを表している。燃費(gr/kWh)が少ないということは、エンジンからのCO2発生量が少なく、エンジンの熱効率ηが高いということになる。
一般には1Lのガソリンで何㎞走行できるのかという、クルマの燃費(㎞/L)が良く使われる。クルマの燃費(㎞/L)が良いことは、クルマの発生CO2が低く、クルマの全体効率ηが高いことを意味している。そして燃費(㎞/L)とCO2(gr/㎞)の関係はほぼ反比例の関係にある。
ではさらにクルマが持つCO2の枠を少し広げてみよう。燃料精製・輸送時に発生するCO2を考慮して議論する際に使われるのが、Well-to-Wheelの燃費、CO2、効率であり、図1にその概略図を示した。
出典☛「電気自動車が一番わかる」石川憲二@技術評論社;p25 より加筆
エンジン正味熱効率ηeが重要な意味を持つ!
EVはWell-to-Wheelの世界で発生CO2量を考えると、Well-to-Tank効率ηT1に比例したCO2がほとんどであり、Tank-to-WheelでのCO2はゼロと考えることが出来る。ここからEV化という短絡的な考えが生まれた。Tank-to-WheelからWell-to-Wheelの世界まで拡げると、ガソリン車とEVのCO2量の差は小さくなり、後で議論されるLCA¹⁾では地域によってはEVは発生CO2量がガソリン車よりも多くなるという結果になる。ただ、本章ではしばらくTank-to-Wheelの世界で議論を進める。ここではエンジンが動力源であり、エンジンの正味熱効率ηeが大きな意味を持つ。@2021.1.10記、2021.2.26修正
《参考文献および専門用語の解説》
1)LCA☛Life Cycle Assessmentに略。2030年を想定し、自動車のライフサイクルでCO2排出量を評価するLCAの議論が欧州で始まった。
何を指標にCO2低減を評価する?
さて、ここから主要地域でのクルマから排出されるCO2発生量は量を議論していく。パリ協定の約定内容は、具体的には2013年度比でCO2の総排出量を約30%も削減していこうというものだ。2020年に各国から削減計画が提出されたが、残念ながらこのままの計画では2030年には2000年から3℃も気温上昇してしまうとこととである。
先ずは、パリ協定の本拠地である「欧州(EU)」の平均CO2@2013年、平均CO2*@2030年の算出をしてみよう。CO2低減目標は、「パリ協定の約定目標2013年度比で2030年度に24%削減¹⁾」ということであった。ちなみに、米国18-21%、日本26%となっている。そこで、現状の延長線上でも到達できそうな目標値ではなく、ここでは少し上限を目指して、各地域が保有しているクルマのCO2量を「2030年に2013年比30%削減」とした。
2013年比ということは、2013年で保有するクルマの数量、CO2量が必要となる:
❏目標削減率30%=ΣクルマのCO2量@2030年/ΣクルマのCO2量@2013年
この分母、分子を計算する時、「いくつかの仮定」と「平均CO2」という考え方(決して難しい考えではない)が必要になる。何故平均CO2という考え方を適用するのは、各国の排出CO2を絶対量grで議論すると、とんでもない量となり比較も難しくなる。あくまで、各国の2013年比でCO2を何%削減するのか、という話であり、絶対量を比較しない。2013年、2030年保有台数で無次元化した方が分かりやすいのではと考えた。
たとえば、2013年にCO2が120gr/㎞のクルマを1万台保有する国があったとする。クルマのCO2総排出量のポテンシャルは、120gr/㎞×1万台=120万・gr/km ということになる。ここで、ポテンシャルという言葉を使ったのは、走行距離が分からないから、これだけCO2を排出してしまうクルマを所有しているということだ。つまり、ここでは120gr/㎞がその値であり、これを平均CO2と定義する。したがって、何種類かのCO2排出量が異なるクルマを所有した場合でも、あくまで保有するクルマのCO2排出量のポテンシャル比較となる。したがって、平均CO2を次のように定義した:
❏平均CO2=Σ{各保有台数×各平均燃費からのCO2量(gr/㎞)}/保有総台数
パリ協定=平均CO2*を30%低減!
次に2030年におけるクルマのCO2排出ポテンシャルとして平均CO2*を定義した:
❏平均CO2*@2030年=平均CO2@2030年✖保有台数@2030年/保有台数@2013年
2030年では平均CO2に台数増減比をかけたものをCO2の排出ポテンシャルとして、CO2*で表現した。したがって、2013年に対する2030年の増減率は次にように算出される:
❏CO2増減率@2030年=平均CO2*@2030年/平均CO2@2013年
=平均CO2@2030年/平均CO2@2013年✖保有台数@2030年/保有台数@2013年
この定義式から言えることは、2030年のCO2削減率を大きくするには、
1)2030年の平均CO2を削減すること
2)2030年の保有総台数を削減すること
である。例えば2030年に保有台数が1万台のまま、1台当たりのクルマのCO2排出量が120➡60gr/㎞になった場合、CO2増減率@2030年は、
❏CO2増減率@2030年=60(gr/㎞)/120(gr/㎞)×1万台/1万台=0.5(50%)
となる。つまり、全保有台数のクルマに対するCO2排出ポテンシャルは半減されたことになる。また、1台当たりのクルマのCO2排出量が120gr/㎞のままで保有台数が半分の0.5万台になった場合でもCO2削減率は、
❏CO2増減率@2030年=120(gr/㎞)/120(gr/㎞)×0.5万台/1万台=0.5(50%)
となり、半減できる。これが平均CO2*の削減率いうことだ。要するに、平均CO2*@2030年を算出して、平均CO2@2013年との比を求めれば、目標平均CO2@2030年が算出できるということだ:
❏目標平均CO2@2030年
=CO2削減率@2030年✖平均CO2@2013年✖保有台数@2013年/保有台数@2030年
=(1-削減割合%)✖平均CO2@2013年✖保有台数@2013年/保有台数@2030年
以上のことを図2に簡単にまとめてみた。
要するに、各国ともクルマCO2の排出量削減に躍起になっているが、保有台数を抑えることも重要な方策の一つになる。シェアリングなどがその好例となる。また、排出量のポテンシャルを表す平均CO2では表せなかったが、クルマの走行距離(使用頻度)を下げることも重要なCO2削減策の一つとなる。
この後、欧州、米国、そして日本を例に取り上げて、
1)平均CO2@2013年、CO2を30%削減する目標平均CO2@2030年を算出
2)クルマの電動化(HV、PHV、EV)による目標達成予想
について順次説明していこう。各国ともいくつかの仮定で計算されていくことになるが、しばらくは我慢して解説を読んでもらいたい。@2021.1.7記
《参考文献および専門用語の解説》
1)「今さら聞けないパリ協定」@経済産業省(2017.8.17)
2030年の予想保有台数は2013年と同数の2.21億台
先ずは、欧州における目標平均CO2を算出することにする。これに必要なデータは、
1)欧州全体が保有するクルマの総台数(2013年、2030年)とその内訳
2)2013年全体平均実燃費(㎞/L)もしくは全体の平均実CO2(gr/㎞)
初めに1)の2013年に欧州が保有していたクルマの総台数を推定をしてみよう。
では一体2013年に保有したクルマの総台数は、何年まで遡れなければならないのだろうか?2乗用車の耐久財の使用年度分布推定という論文¹⁾²⁾において、2008年末での欧州12か国平均15.2年とされている。つまり、欧州の場合はクルマの寿命を15年として1999年~2013年の販売台数を総和することで、2013年に欧州が保有したクルマの総台数と考えた。ちなみに、日本は13.2年、米国は15.3年となっている。
さて、JATOの統計的データによれば、図3に示した欧州乗用車販売台数の推移から欧州保有台数@2013年は次のように算出される。なお図から分かるように、2008年のリーマンショックの影響で年々販売台数は減少し続けた:
❏欧州乗用車保有台数@2013年=Σ1999年~2013年=2.21億台;平均販売台数1,473万台/年
出典☛JATOから提供されたデータを基に当技研が作成
では1)の2030年の保有台数はどうであろうか?図4にやはり同じくJATOのデータから2010年~2019年までの乗用車販売台数推移を示した。2014年からはやっとリーマンショックの影響からの立ち直りをみせて、2014年から2017年までは増加傾向にある。2017年~2019年までは1,560万台前後で、1999年~2007年の平均値1,550万台/年と同程度の値に落ち着いている。したがって、2018年~2030年までは1,560万台で飽和していると考え、2016年~2030年の15年間の新車販売台数を次のように仮定した:
1)2016年~2017年の実績総和=1,509+1,557=3,066万台
2)2018年~2030年は年1,560万台=1,560✖13=20,280万台
したがって、2016年~2030年の総和=3,066+20,280=2億3,346万台≒2.33億台。つまり、
❏2030年保有台数/2013年保有台数=2.33/2.21=1.054≒1.05
となり、5%程度増加したことになる。ただし、先回のリーマンショック影響で販売台数が落ち込んだと同様、今回の2020年からのコロナ禍で販売台数がしばらく伸びないことも予想される。したがって、ここは2030年保有台数と2013年保有台数はほぼ同程度になると仮定してもいいと考えた:
❏欧州乗用車保有台数@2030年=Σ2016-2030年=Σ1999-2013年=2.21億台@1,470万台/年
出典☛「2019年欧州新車販売台数レポート」JATO@2020.2.27
2013年に保有したクルマ平均CO2=156gr/㎞@モード燃費
次に、2013年に欧州が保有していたクルマの平均燃費について検討した。そこで、データをいろいろと探した結果、図4に示した「欧州の乗用車におけるCO2排出値の変遷」というグラフの数値を使うことにした³⁾。図4左には各車のCO2推移データを示した。これは当時のNEDCモード⁴⁾による欧州全体の平均CO2(加重平均値)をまとめたものだ。各規制値に対してガソリン車(GV;赤線)、ディーゼル車(DV;緑線)、全体(青線)のCO2データが示されている。この図から2013年には既にGV、DV共に2015年規制値の130gr/㎞はクリアしていることが分かる。
出典☛「WLTPやRDE試験を導入へ」日経Automotive2016年3月号;P44 より加筆
ここでは図5の全体CO2データをモードCO2データとして使用することにする。クルマの寿命を15年と考えたから、1999年から2013年のCO2データが必要となる。1999年のデータは、図4から直線補間して推定した175gr/㎞を用いた。その値を含めて2013年まで平均した結果、
❏平均モードCO2@1999-2013年=156.3gr/㎞
このままでもいいのであるが、後で米国、日本とのCO2量も比較したく、実燃費に換算する換算係数をここで適用する。欧州実燃費の換算係数⁵⁾=実CO2/モードCO2=1/0.85を用いることにする:
❏実平均CO2@1999-2013年=平均CO2@2013年=156.3/0.85=183.88≒184gr/㎞
削減目標は各地域同一の「2013年比でCO2を2030年に30%削減」ということにしたので、2030年2.6億台に対する目標平均CO2は次のように計算される:
❏目標平均CO2@2030年
=(1-削減割合%)✖平均CO2@2013年✖保有台数@2013年/保有台数@2030年
=(1-0.30)✖184✖2.21/2.21=128.8≒129gr/km
欧州では2013年2.6億台のクルマの平均CO2「184gr/㎞」をベースにすると、2030年には同数の保有台数2.6億台における目標平均CO2は「129gr/㎞」となった。この結果を図6に示す。果たしてこれまでの延長のクルマ路線で目標平均CO2「129gr/㎞」は達成できるのか、このあとの第3話で説明する。@2021.1.9記、2021.2.26修正
《参考文献および専門用語の解説》
1)「クルマの寿命は20年が限界?」くるまいこドットコム
2)「耐久財の使用年数分布の国際比較」小口正弘ら@2012年3月
3)「2017年に大きく変わる排気ガス規制」日経Automotive2016年3月号@日経BP社;p44
4)NEDC☛New European Driving Cycleの略。欧州の燃費試験の走行モード。
5)欧州実CO2(gr/㎞)=NEDCモードCO2/(0.75×1.15)=NEDCモード/0.86。一方、e燃費Best10(2020年4月)の実CO2=WLTCモードCO2/0.84。したがって、欧州では実CO2=WLTCモードCO2/0.85とする。「0.75」は日本における実CO2=モードCO2/0.75、NEDCモードCO2=JC08モードCO2/1.15。ここで「1.15」の意味は欧州は高速走行が多く、実用域でエンジン回転数が低いため、走行モードとしては燃費良化の方向走行する☛参考「NEDCモードと10・15/JC08モード」BMW@RAKTEN BLOG(2012.3.8)
2019年電動車割合は8%、その内半分がEV!
前話で欧州が2013年比で2030年にCO2を30%削減するために、目標平均CO2@2030年=130gr/㎞が必要であることを説明した。この目標値を達成するためには、2030年までにどんなクルマの構成に変えていくべきか?をいくつかの構成例で議論していきたい。
先ず2030年の保有台数2.21億台の内訳を考えてみよう。計算上複雑になるため、2016年~2030年までのクルマ販売台数は毎年1,470万台として、その内訳を考えていこう。参考として、2010年~2019年までの電動化率を図7に、2018-19年の電動車の内訳を図8に示した。図7によれば、電動化は2014年2%から2019年8%まで徐々に増加傾向にある。また電動車の比率も2018-2019年だけであるが、EV40%、HV60%となっている。そこで、この数値を基に2020-2030年の2つのケースを考えてみた。
出典☛「2019年欧州新車販売台数レポート」JATO@2020.2.27
出典☛「2019年欧州新車販売台数レポート」JATO@2020.2.27
2つのCASEで考えてみよう!
一つはこれまでの延長上でEV化を進めた場合、もう一つはEVの技術的課題がかなり克服できて消費者に受け入れられた場合である。なお、ここの電動化率にはEV、HV、BSGのすべてを含んでいる:
❏CASE-1☛従来の延長上でのクルマ販売
(2030年EV化率5%、HV化率10%、電動化率75%)
1)EV:3%@2016-2020、5%@2021-2030年
2)HV:3%@2016-2020、10%@2021-2030年
3)GV、DV:94%@2016-2020、65%@2021-2025、25%@2026-2030年
4)BSG:0%@2016-2020、20%@2021-2025、60%@2026-2030年
❏CASE-2☛EV化、電動化の強力な促進
(2030年EV化率20%、HV化率20%、電動化率100%)
1)EV:3%@2016-2020、5%@2021-2025、20%@2026-2030年
2)HV:3%@2016-2020、10%@2021-2030、20%@2026-2030年
3)GV、DV:94%@2016-2020、65%@2021-2025、0%@2026-2030年
4)BSG:0%@2016-2020、20%@2021-2025、60%@2026-2030年
2030年には20%のEV化率が必要!
さて、両CASEでの平均CO2を求めるためには、各クルマにおけるTank-to-Wheelの平均CO2量が必要となり、そこでモードCO2の値から次のように仮定した:
1)EV☛Tank-to-WheelのCO2量=ゼロ
2)HV☛95gr/㎞/0.85=112gr/㎞@2016-2020年
85gr/㎞/0.85=100gr/㎞@2021-2025年
75gr/㎞/0.85=88gr/㎞@2025-2030年
3)GV☛119gr/㎞/0.85=153gr/㎞@2016-2030年
4)BSG@燃費効果10%☛153✖0.90=138gr/㎞@2021-2030年
これらの各クルマの平均CO2の値から、CASE-1、CASE-2の
❏CASE-1☛平均CO2@2016-2030年
={112✖0.03✖5+100✖0.10✖5+88✖0.10✖5+153✖0.94✖5+153✖0.65✖5+153✖0.25✖5
+138✖0.00✖5+138✖0.20✖5+138✖0.60✖5}/15=138.02≒138gr/㎞>129gr/㎞
❏CASE-2☛平均CO2@2016-2030年
={112✖0.03✖5+100✖0.10✖5+88✖0.20✖5+153✖0.94✖5+153✖0.65✖5+153✖0.0✖5
+138✖0.00✖5+138✖0.20✖5+138✖0.60✖5}/17=128.21≒128gr/㎞≒129gr/㎞
第1話で定義した削減割合は
❏削減割合@CASE-1
=1-平均CO2@2030年/平均CO2@2013年✖保有台数@2030年/保有台数@2013年
=1-138/184✖2.21/2.21=0.250=25%
❏削減割合@CASE-2
=1-128/184✖2.21/2.21=0.304≒30%
つまり、これまでの延長上で考えた時、EV化率=5%では130gr/㎞は達成できず、138gr/㎞とCO2削減率24%にとどまる。まさにこの数字は、欧州が約定した2030年目標24%と同じ値³⁾となった。欧州は現実路線で到達できる目標値を単に約定したに過ぎない。全く本気でないことが理解できる。少なくともEV化率を5%から20%に一気に引き上げないと、129gr/㎞には到達できない。
ここで、不思議なことが❔
ただここでさらに面白い計算結果がある。2021年燃費規制値95gr/㎞は一体クルマ社会にどんな影響をもたらすのか?をCASE-3として推定してみた:
❏CASE-3☛2021年以降は95gr/㎞の延長上@2030年EV化率5%
1)EV:3%@2014-2020年、5%@2021-2030年☛0gr/㎞
2)HV:3%@2014-2020年☛95gr/㎞/0.85=112gr/㎞
3)GV、DV:94%@2016-2020年☛119⁴⁾gr/㎞/0.85=153gr/㎞
4)2021年規制車:95%@2021-2030年☛95gr/㎞/0.85=112gr/㎞
以上の仮定を基に平均CO2を計算すると、
❏CASE-3☛平均CO2@2014-2030年(EV化率5%)
={112✖0.03✖5+153✖0.94✖5+112✖0.95✖10}/15=120.0≒120gr/㎞<129gr/㎞
つまり、2021年欧州規制95gr/㎞を達成したならば、2021-2030年のEV化率が5%のCASE-1でも何と目標値129gr/㎞を余裕をもって達成することが出来るのである。削減割合は、
❏削減割合@CASE-3
=1-120/184✖2.21/2.21=0.348≒35%
2030年に保有するクルマのCO2削減率は、2013年比で35%にもなる。具体的構成として、5%のEV以外を例えばトヨタプリウス95gr/㎞(平均実CO2=112gr/㎞)にすれば、123gr/㎞以下となる。
もちろん、EV化率を上げることは重要であるが、それよりもどんなクルマの構成で2021年規制95gr/㎞を達成するかが重要であり、罰金を納めさせても温暖化には何の寄与もしない。第1章第1話で最近の欧州CO2の動向に触れたが、2020年1-6月に118.5gr/㎞であったのが、1-8月では102.2gr/㎞に突然下がっている。これは重要なことで、どんな構成にしたから下がったのか明確に表明すべきである。何しろ、2013年比で2030年には35%もCO2を下げることが出来るポテンシャルをこの構成には存在しているかもしれないからだ。EV化の必要性はどこかに吹き飛んでしまうからだ。95gr/㎞規制がそれほど厳しい規制ということになるかもしれないが、トヨタのHVは既に95gr/㎞規制はクリアしてる。簡単な計算結果による今回の結論にご不満の方はぜひご一報頂きたい。@2021.1.18記
《参考文献および専門用語の解説・補足説明》
1)「2019年欧州新車販売台数レポート」JATO@2020.2.27
2)図3における2015-2020年の平均値=119.3gr/km
3)「今さら聞けないパリ協定」経産省資源エネルギー庁ホームページ@2017.8.17
4)第1章第1話の図2から2016年~2020年の平均値=119.38gr/㎞
2030年の予想保有台数は2013年比5%増で2.41億台
さて、欧州のケースと同じように、2030年の目標平均CO2を算出していこう。目標削減率は、2013年比で30%とする。初めに、米国が2013年に保有していたクルマの総台数を推定してみよう。クルマの寿命は15年とする。したがって、1999年~2013年の新車販売台数の総和が保有台数ということになる。図9に米国における2000年から2019年までの新車販売台数の推移を示した。ここで、2008年の激減要因は欧州と同じようにリーマンショックの影響である。米国は立ち直りが早く、2年後の2010年には増加傾向に戻っている。そこで、1999年の販売台数を1,700万台とすると、2013年の保有台数は次のようになる:
❏米国乗用車保有台数@2013年=Σ1999-2013年=2.30億台
さらに、2015年~2019年では1,700万台前後で元に戻っているようにみえる。欧州と同じく、クルマの寿命は15年とすると、2016年~2030年までの保有台数は次のようになる:
❏米国乗用車保有台数@2030年=Σ2016-2030年=1,700万台✖15=2.55億台
❏2030年保有台数/2013年保有台数=2.55/2.30≒1.10
となり、2013時点に比べて10%増加したことになる。ただし、ここでも2020年からのコロナ禍の影響を受けるため、5%増加に留まると仮定した:
❏米国乗用車保有台数@2030年=2.30✖1.05=2.41億台
出典☛2019年の米国新車販売台数は1.3%減少@JETRO(2020.2.28)
目標平均CO2=346➡231gr/㎞@2030年で欧州の1.8倍!
次に2013年に保有した2.3億台の平均CO2を算出する。図10はEPAが発表した論文²⁾からの抜粋である。横軸に年代(Model Year)、縦軸には乗用車(Cars)、SUV(Truck)、全体平均の燃費³⁾(MPG)が示されている。論文に明記された2016年データでは
❏全体=24.7MPG、乗用車=28.5MPG、SUV=21.2MPG
となっており、この時点では乗用車に比べてSUVは34%も燃費が悪化している。
そこで、図10から1999年~2013年の燃費データを読み取って平均平均値を算出した:
❏平均モード燃費@1999年-2013年=20.9MPG=8.88≒8.9㎞/L
❏平均実燃費@1999年-2013年=8.9✖0.75⁴⁾=6.675≒6.7㎞/L
したがって、2013年に保有するクルマの平均CO2は
❏平均CO2@2013年=2320/6.7=346.3≒346gr/㎞
以上の結果から分かるように、欧州と比較すれば約2倍弱程、燃費は悪いと言える。この悪い燃費で、2030年にCO2を30%低減する目標平均CO2を算出すると、
❏目標平均CO2@2030年
=(1-削減割合)✖平均CO2@2013年✖保有台数@2013年/保有台数@2030年
=(1-0.30)✖346✖2.3/2.41=231gr/㎞
米国の目標平均CO2@2030年を図11に示した。2030年には保有台数の増加が予想されるため、多少厳しくなったが、欧州に比べればまだまだ緩い結果になっている。米国が削減目標値である「231gr/㎞」を達成するために、どんなクルマ構成にしていけばいいのか、第5話で説明する。@2021.1.16記
出典☛「Highlights of CO2 and Fuel Economy Trends」@EPA(2017.1.19) から加筆
《参考文献および専門用語の解説》
1)「乗用車普及台数の国際比較(2011年)」社会実情データ図録@2013.9.4
2)「Highlights of CO2 and Fuel Economy Trends」@EPA(2017.1.19)
3)燃費の単位(MPG)=1.609㎞/3.785(L)=0.425(㎞/L)
4)日本の実燃費換算として、2013年には0.75、2030年には0.70を用いた。
現行の燃費改善では、2030年CO2低減率は18%!
さて2030年に保有したクルマ2.41億台の平均CO2については、図10から直線補間して推定した。欧州と同じようにクルマの寿命を15年と考えて、2030年に保有されるクルマは2016年~2030年に販売されたクルマの集団となる。2017年~2030年までのデータは直線補間して平均値を求めた:
❏平均燃費@2016-2030年=28.8MPG=28.8✖0.425≒12.2㎞/L
❏平均実燃費@2014-2030年=12.2×0.70¹⁾≒8.54㎞/L
❏平均CO2@2030年=2320/8.54=271.6≒271gr/㎞>231gr/㎞
第1話で定義した削減割合は
❏削減割合=1-平均CO2@2030年/平均CO2@2013年✖保有台数@2030年/保有台数@2013年
=1-271/346✖2.41/2.30=17.93≒17.9%
EPA報告書にある燃費改善(図10の2016-2020年)の延長上であれば、2013年の346gr/㎞から271gr/㎞と18%も改善している。しかし、目標値の30%削減(231gr/㎞)には12%(40gr/㎞)程改善が足りないという結果になった。
そこで、登場するのが2018年から施行されている米国ZEV規制²⁾である。図12にZEV規制値を2018年から2025年を示した。
出典☛「ZEV規制とは?」兵庫三菱Web編集局@2018年6月30日 より加筆
ZEV規制が施行されても、2030年CO2低減率は21%!
ZEV規制におけるZEVの割合(%)は、CARBの2018年以降のZEV基準の文書³⁾から計算されるクレジット(cr)の割合を示している。決してEV化率、PHV化率を示しているわけではない。例えば、ZEVであるEVのEV走行距離が400㎞(250マイル)、TZEVであるPHVのEV走行距離が50㎞(30マイル)とすると、各クレジットは次のようになる³⁾:
❏EVクレジット=0.01×EV走行距離+0.50=0.01×250+0.5=3(cr)
❏PHVクレジット=0.01×EV走行距離+0.30=0.01×30+0.30=0.6(cr)
PHVクレジットはこんなものとしても、EVクレジットはEV走行距離が400㎞であれば3crとカウントし、600㎞であれば4crとカウントするのである。そもそも、このクレジット計算方法が余りにも甘い気がする。
例えば、2020年ZEV規制9.5%を例に取り上げると、EVクレジット6%、PHVクレジット3.5%の規制値である。台数シェアは、EVシェア@距離400㎞=6/3=2%、PHVシェア=3.5/0.6≒6%にしろ!ということだ。したがって、乗用車を100万台販売するメーカーでは、2020年にはEV=100×0.02=2万台、PHV=100×0.06=6万台を販売する義務があると考える。
当然残りの92万台は今まで通りのガソリン車でも構わない。この92万台にはMY2020-25燃費規制を厳しく施行すればまだ益しだが、トランプ政権の下では現行のMY2018規制のままである。このままでは、従来車も年々燃費基改善していくと仮定して算出した平均CO2@2030年=271gr/㎞も半分も到達しないのではないか?と思われる。ZEV規制も燃費規制も甘いままで、米国のクルマCO2など下がるわけがないと思うのは私だけであろうか?
ではその甘いZEV規制が施行されたとして、平均CO2@2030年を算出してみよう。2018年~2030年の規制値中央値は、2024年のEV=14%、PHV=5.5%。台数シェアはEV=14/3≒4.7%、PHV=5.5/0.6≒9.2%となる。ちなみに、2030年には台数シェアがEV=26/3≒8.7%、PHV=8.5/0.6≒14.2%。2030年にはPHV含めたEV化率では23%程度になる。この数値だけを見れば、米国でもEV化がかなり進むと思われる。
ところがZEV規制を導入している州は、加州含めて11州⁴⁾に限られているだ。11州でのS乗用車販売台数では全米約30%シェア。要するに、総新車販売台数1,700万台の30%、つまり約500万台はZEV規制が導入されてEV化が進むが、残りの75%、1,200万台は旧態依然としたEPA燃費データ延長線の燃費改善しかされないのである⁵⁾。したがって、ZEV規制の影響は想像以上に小さい。
簡単な計算で検証してみよう。平均CO2を算出する時、PHVの燃費は前編にてPHV=104MPG⁶⁾とした値を用いる。またEVの平均CO2はゼロであるので、全販売台数からEV台数を差し引いた。以上の仮定をもとに、ZEV規制が11州(シェア30%)で2018年から施行された場合、2016年から2030年までの15年間で販売されたクルマの平均燃費を算出する:
❏ZEV規制がされない39州(シェア70%)の平均燃費@2016-2030年=28.8MPG
❏ZEV規制施行の11州(シェア30%)の平均燃費@2016-2030年
={24.7+25.2+(104⁶⁾✖0.092+29.4⁵⁾✖0.861)✖13}/15=33.55≒33.5MPG
したがって、全米50州の平均燃費は
❏全米平均燃費@2016-2030年=28.8✖0.7+33.5✖0.3=30.21≒30.2MPG
以下、同じように平均CO2@2030年を算出:
❏平均燃費@2016-2030年=30.2MPG=30.2✖0.425=12.83≒12.8㎞/L
❏平均実燃費@2014-2030年=12.8×0.70¹⁾≒8.96㎞/L
❏平均CO2@2030年=2320/8.96=258.9≒259gr/㎞>231gr/㎞
という結果になった。同様に第1話で定義した削減割合は
❏削減割合=1-259/346✖2.41/2.30=21.56≒21.5%
結果的にはZEV規制を施行しても、2030年にはCO2削減率は17.9➡21.5%と3.6%増加しただけで、30%には遠く及ばない。ただし、ZEV規制なしの17.9%、ZEV規制有の21.5%というCO2低減率は、欧州と同様、米国が約定した2030年目標18~21%と同じ値⁷⁾となった。米国は現実路線で到達できる目標値を単に約定したに過ぎない。政治的にZEV規制を世界にちらつかせているように思える。
ZEV規制を全米50州施行して、30%削減!
ではどうすればいいのか?すぐに思いつくのは次の2点である:
➊クレジット算出方法を3倍厳しく設定:CO2低減率28%!
❏EVクレジット=3(cr)/3=1(cr)
❏PHVクレジット=0.6(cr)/3=0.2(cr)
すると、平均値である2024年規制値から台数シェアを算出すると、EV=14/1≒14%、PHV=5.5/0.2≒27.5%となる。2030年には、EV=26/1≒26%、PHV=8.5/0.2≒42.5%。PHV含めたEV化率では何と70%弱!になる。
❏ZEV規制施行の11州(シェア30%)の平均燃費@2016-2030年
={25.0⁵⁾✖2+(104⁶⁾✖0.275+29.4✖0.585)✖13}/15=43.0≒43MPG
❏全米平均燃費@2016-2030年=28.3✖0.7+43✖0.3=29.86≒32.7MPG
❏平均燃費@2016-2030年=32.7MPG=32.7✖0.425≒13.9㎞/L
❏平均実燃費@2016-2030年=13.9×0.70¹⁾≒9.7㎞/L
❏平均CO2@2030年=2320/9.7≒239gr/㎞≒231gr/㎞
❏削減割合=1-239/346✖2.41/2.30=27.62≒27.6%
2030年にEV化率26%、PHV化率43%は現実的でないかもしれない。それでも、CO2削減率は28%弱である。そこで、思い切って次の策を検討してみた:
➋ZEV規制施行11州➡全米50州:CO2低減率30%!
❏平均燃費@2014-2030年=33.5MPG=33.5✖0.425≒14.2㎞/L
❏平均実燃費@2014-2030年=12.6×0.70¹⁾≒9.9㎞/L
❏平均CO2@2030年=2320/9.9=234..3≒234gr/㎞≒231gr/㎞
❏削減割合=1-231/346✖2.41/2.30=30.04≒30.0%
まさに目標達成と言ってもいい。ただし、全州施行となると各州における事情により難しいかもしれない。
米国のクルマによるCO2を2030年に2013年比で30%下げるには、現行の燃費低減+ZEV規制(11州)では不可能で、さらに思い切った施策をしなければ、30%低減などは夢のまた夢。これまでシェール革命の恩恵を受けてガソリンを使いたい放題使用して、さらには燃費が悪いSUVをシェア70%を超えるところまで進めてきたツケがここに回って来たと考えた方がいい。したがって、自国利益だけを考えずに次期バイデン政権では地球環境をも考慮して、上記の施策のように厳しく燃費規制、EV化推進に当たってもらいたいものである。@2021.1.18記
《参考文献および専門用語の解説》
1)日本の実燃費換算として、2013年には0.75、2030年には0.70を用いた。
2)2019年9月に連邦政府は加州に認めてきた免除規定(連符政府よりも厳しい規制策定・発行できる権利)を撤廃と表明。しかし加州大気資源局(CARB)は提訴。バイデン政権への移行と共にZEV(ZERO-EMISSION VEHICLE STANDARDS)規制は認められるとの予想。
3)「Final Regulation Order – Part 3 ;ZERO-EMISSION VEHICLE STANDARDS FOR 2018 AND SUBSEQUENT MODEL YEAR PASSENGER CARS, LIGHT-DUTY TRUCKS, AND MEDIUM-DUTY VEHICLES」CARB@2012.3.22
4)「連邦政府のZEV規制潰しに反発する加州が政府を支援するメーカーの新車購入を停止」@EVsmart.Blog.net(2019.11.25)☛加州に加えてコネチカット、メイン、メリーランド、マサ チューセッツ、ニュージャージー、ニュー ヨーク、オレゴン、ロードアイランド、バー モント、コロラドの計11州☛シェア30%@2019.6時点
5)燃費データは2016年☛24.7、2017年☛25.2MPG。2018年~2030年の平均燃費29.4MPG。2016年~2030年の平均燃費は28.8MPG。
6)前編第3章第25話で熱効率40%のPHV実燃費=34.1㎞/Lとした。「NEDCモードと10・15/JC08モード」BMW@Rakuten Blog(2012.3.8)において、CAFEモード/JC08モード=1.3、要するに、米国の走行では燃費は1.3倍伸びるとしている。ここでも、同じ比率をPHVにも適用して、下記のように米国でのPHV実燃費を定めた:
PHV実燃費=34.1×1.3=44.33㎞/L=44.33/0.425=104.30≒104MPG
7)「今さら聞けないパリ協定」経産省資源エネルギー庁ホームページ@2017.8.17
NEV規制は大気汚染対策❔
さて世界第1位のCO2排出国である中国は、クルマのCO2をどの程度下げてきたのであろうか?これに対して、欧州、米国のように定量的に議論を進めるのは難しいことを最初に申し述べておく。議論できる燃費の詳細データが全く公表されていないからである。
中国では先ずは都市部の大気汚染問題を何とかしたいというのが実態で、CO2問題などは二の次と考えているのだろう。確かに中国メーカーの排気ガス浄化技術はかなり遅れていたというのが実態であろう¹⁾。最近中国が得意とするIT技術のようにはいかないようだ。
したがって、このような事情の中で、いきなりNEV規制を導入しようとしたのだ。地球温暖化の減速という高邁な目的で始めた米国ZEV規制には似せてはいるものの、事情は全く異なっていた:
1)都市部のPM2.5対策(要はCO2削減対策ではなく排気ガス対策)
2)中国メーカーの自動車技術が未だ向上せず、独系、日系、米国系などに50%を超えるシェアを抑えられているため、ここで世界の3大メーカーにEVで肩を並べよう!という政治的スローガン²⁾
複雑な高熱効率のエンジン開発に中国技術陣はなかなか追いつけず、HVなどの電動化技術は到底無理で、中国政府からは簡単そうに見えるEVで国内シェアを何とか奪回しようと考えたと思われる。その結果として、中国は2019年世界のEVシェア39%で堂々の世界1位となった³⁾。あくまでEVの世界シェアは2%、中国国内でも4%と未だ小さい。
そんな訳で1990年代のクルマと2010年代のクルマが混在する中国クルマ社会において、いきなりEVを数%登場させても大気汚染を止める効果は薄く、また補助金も打ち切られる中、一般消費者に浸透するはずもない。以上のような中国の事情を踏まえて、欧州、米国と比べればかなりざっくりとしているが、燃費改善状況について話を進めていきたい。
乗用車販売台数2,400万台/年、SUV化率50%以上の中国市場
図13に中国内での乗用車販売台数とSUV化率の2013~2019年推移を示した⁴⁾。2017年には商用車含めた総販売台数は2,888万台で、その内乗用車はSUV、MPV含めて2,472万台。その後、総販売台数2019年まで減少傾向にあり、2020年はコロナウイルスの影響でさらに減少すると予想される。ただ、2019年時点で10年連続で世界最大の乗用車市場になっているのは事実だ。図には燃費に大きく影響するSUV化率も同時に示した。2013年に33%であったのが次第に増加し、2016年には50%に達成した後は50%台をキープしている。米国の70%@2019年という程ではないが、欧州の38%@2019年を超えており、2016年以降50%台に突入して燃費は悪化傾向にあると思われる。
出典☛自動車販売台数速報 中国2013年-2019年@MarkLines のデータからグラフ化
図14に2017年世界各国のCO2排出量の割合(左図)、一人当たりのCO2排出量(右図)を示した。中国は世界の30%近いCO2量を排出しており、何とかクルマのCO2低減でも劇的に改善していってほしいと思う。ただし、一人当たりのCO2排出量をみると、米国の半分以下。2018年人口が14億3,500万人を超えた事実を考慮すると、EVに頼りたくなるのも良く理解できる。ただ、EV以外95%シェアのガソリン車、特に全体の50%のシェアを維持しているSUVの燃費改善、いや燃費革命を起こしてほしいと思う。米国がZEV規制でお茶を濁しているように、中国もNEV規制で同じようなことをしないでほしい。
これほどまでに、悲観的な中国状況を理解して頂くために、数少ないデータから中国がどの方に向かうべきなのか、具体的に話をしていこう。@2021.1.21記
出典☛「2017年世界のCO2排出量」@JCCCA から加筆
《参考文献および専門用語の解説》
1)中国メーカシェアは2013-2019年までは40-50%で変動。残りは先進国の現地生産車。中国内メーカーのクルマは未だ排気ガス対策に汲々としている感じ。
2)VW社、トヨタ社、ルノー日産三菱連合の1,000万台クラブに対して、第一汽車・東風汽車・長安汽車の最大手3社が合併して中国政府をオーナーとする世界最大級の自動車メーカーが誕生するという可能性も囁かれている。例えば、「中国の電気自動車が日欧米より有利なワケ」PRESIDENT Online@2018.5.18
3)第1章第2話の図4参照
4)自動車販売台数速報 中国2013年-2019年@MarkLines
2030年保有台数3.3億台に!何と2014年比2.3倍!
では、欧州、米国での2030年クルマCO2予測を中国でも試みた。2013年の乗用車保有台数データはなく、2014年のJAMA公表データを用いる:
❏中国乗用車保有台数@2014年=1.43億台¹⁾
次に2030年の保有台数を予測する。クルマの寿命は欧米と同じく15年とした。したがって、2016年~2030年の新車販売台数がそのまま市場に残るとしている。前話図13において、2016年~2019年の平均販売台数は2,356万台でほぼ飽和状態と考えた。欧州と同じくコロナ禍の影響が5%程度あったとすると、乗用車・SUVの平均販売台数は2,200万台/年。したがって2030年の保有台数予測は、次のようになる:
❏中国乗用車保有台数@2030年=0.22✖15=3.3億台
欧州が2013年比=1、米国が2013年比=1.05に対して、直近4年間の平均値に対して95%と考えても、中国は何と2014年比=3.3/1.43=2.3倍となる。これだけでも、NEV規制で何とかなるという状況ではないことがお分かりになるであろう。
2015年に平均燃費目標7L/100㎞を達成!
図15に乗用車平均燃費の目標値と実績値、図16に平均燃費実績値と平均車重推移を示した。図15において、2006年実績値8Lから2015年7Lまで100㎞走行当たりの燃費を改善してきている。2015年目標値6.9Lに対して、7Lという実績値は中国にしては立派である。7L/100㎞は14.3㎞/Lであるので、欧州130gr/㎞規制に対応する燃費17.8㎞/Lの80%レベルまで到達している。その後は2020年5L、2025年4L、そして2030年には3L/100㎞と燃費目標を立てているようだ。
出典☛「世界の燃費規制の進展と自動車産業の対応」
@三井物産戦略研究所2017.3.15 より加筆
出典☛「世界の燃費規制の進展と自動車産業の対応」
@三井物産戦略研究所2017.3.15 より加筆
図16において、中国系燃費と外資合弁系燃費の推移、各平均車重の推移を示している。2006年~2013年にかけて、外資合弁系は重量車両に、また中国系は軽車両に使われていたにもかかわらず中国系の方が燃費が悪かった。ただ2015年では車重、燃費とも中国系、外資合弁系に差はない。技術レベルが上がって来たと評価してもいいのではないかと考える。そこで、これらのデータから2030年に保有する3.3億台に平均CO2はどの程度燃費低減が出来ているのか、さらに2014年比で平均CO2を30%削減するにはどうすればいいのか、検討してみた。
NEV規制では何ともならない中国CO2排出量!
図15において2000年~2006年を直線補間し、2000年~2014年の平均燃費を求めると、
❏平均燃費@2000-2014年=7.825²⁾≒7.8(L/100㎞)
次に中国が目標値を順守して、2030年までに平均燃費が3L/100㎞になったとする。その場合、2016年~2030年の平均燃費を求めると、
❏平均燃費@2016-2030年=4.67≒4.7(L/100km)
ここで3つのCASEについて、2014年比での平均CO2の低減率を推定してみた:
❏CASE-1☛EV化が頓挫して、平均燃費目標値だけを順守した場合
燃費低減率=平均燃費@2016-2030年/平均燃費@2000-2014年✖3.3億台/1.43億台
=4.7/7.8✖3.3/1.43=1.39≒1.4倍
保有台数が2.3倍にも膨らむため、いくら平均燃費40%減少させても、CO2排出量は
1.4倍にも増加することになる。やはり、年間2,200万台もの新車販売することが大き
く影響しており、CO2削減を非常に難しくしている。
❏CASE-2☛EV化を2030年までにEV化20%(同時に平均燃費目標値到達)
EV化率を5%@2020年、10%@2025年、20%@2030年と順調に伸ばしていった場合、
平均燃費@2016-2030年={0.975✖6²⁾+0.90✖4.5²⁾+0.80✖3.5²⁾}≒4.2(L/100km)
燃費低減率=4.2/7.8✖3.3/1.43≒1.24倍
欧州並みにEV化率を上げても、平均燃費は1.24倍に増加してしまう。NEV規制でCO2
削減とは「夢のまた夢」と言っているのは、このことだ。
❏CASE-3☛EV化率を直線的に増加させ、2030年までに50%(燃費低減も行う!)
現実的にはあり得ないEV化率ではあるが、簡単に計算してみた:
燃費低減率={0.25✖0+0.75✖4.7}/7.8✖3.3/1.43≒1.04
これだけのEV化を進めても2014年に保有したクルマのCO2排出量を維持するだけに留
まっている。
中国はクルマの平均CO2を下げるのは、保有台数、つまりこれからのクルマ平均販売台数2,200万台にメスをいれなければ、何ともならない。公共交通機関の拡充、シェアリングなどを政府が率先して進めなければ、平均CO2は下らない。残念ながら欧米諸国と同じような、一人当たりの保有台数⁴⁾まで増加させると、飛んでもないことになるのである。では、どこまで販売台数を減らせばいいのかと言えば、平均CO2削減率を2030年30%として、CASE-2の場合で検討すると、
❏保有台数@2030年=1.43✖7.8/4.2✖(1ー0.30)=1.86(億台)
❏年間平均販売台数@2016-2030年=1.86/15=1,240(万台)
要するに、毎年の新車販売台数を2,200➡1,200万台/年に何らかの施策で1,000万台も減らさなければ、中国のクルマ平均CO2の30%削減などありえないのだ。これでNEV規制だけでは何ともならないことはご理解いただけたと思う。@2021.1.21記
《参考文献および補助説明》
1)豆知識「日本と世界の自動車保有台数」CARDAYS MAGAZINE@2017.1.30
2)平均燃費=8.4@2000年、8.1@2004年、7.8@2009年、7.0@2014年とすると、2000~2014年の平均燃費は、7.825≒7.8(L/100km)。
3)平均燃費@2016-2020年=(7+5)/2=6、平均燃費@2021-2025年=(5+4)/2=4.5、平均燃費@2026-2030年=(4+3)/2=3.5
4)1000人当たり米国860台、欧州600~750台、日本615台@2018年末に対して、中国は140台(2億台/14.35億人)@2018年末
2030年の予想保有台数は5%増の6,300万台!
さて、欧州、米国、中国におけるクルマの排出CO2削減について、結構辛辣な内容を話してきたが、肝心の日本はどうなのであろうか?パリ協定の約定目標は、2013年比で2030年までにCO2を26%削減するとなっている。細かく言えば、クルマの範疇である運輸部門では27.6%削減となっている。各国と路線を合わせた格好だ。しかし、ここでは日本も30%削減するにはどうすればいいのか?を説明していこう!
では、早速30%削減するための2030年CO2目標を検討していく。そのためには、これまで行ってきた以下の数値を算出しなければならない:
1)クルマの平均寿命(平均を算出するのにどこまで遡るのか?)
2)日本の新車販売台数推移と保有総台数@2013年、2030年
3)平均CO2(g/㎞)算出のための平均燃費(㎞/L)@2013年
4)目標CO2(g/㎞)@2030年
クルマの平均寿命について、前話では欧州、米国、中国では15年としてきた。日本では
自検協¹⁾のデータから次のように算出²⁾³⁾した:
❏クルマの平均寿命@2013年=12年
❏クルマの平均寿命@2030年=15年
次に、図17に新車販売台数推移を乗用車、軽自動車、合計について示した。国内では500万台新車が販売され、6割が乗用車、4割が軽自動車と考えればいい。ただし、2020年はコロナ禍の影響を受けて、460万台の販売台数に終わった。ただし、この影響はしばらく続くと考えられ、また1)若者のクルマ離れ、2)高齢者保有台数の減少、3)人口減少、4)シェアリング、などの理由から、2030年頃まで国内販売台数は年450万台を下回る台数で推移していくと予想される
日本の保有台数推移を図18に示した。2014年3月末には6,028万台保有していたが、ここ3年ぐらいは6,200万台で横ばい傾向が続いている。先ずは、2013年の保有台数は、
❏クルマ保有総台数@2013年=6,000万台
先ほど説明したクルマの平均寿命@2030年=15年、年間販売台数が450万台を下回ることを考慮して、年間販売台数を420万台とした。すると、2030年の保有台数は、
❏クルマ保有総台数@2030年=420万台(新車販売台数)✖15年(平均寿命)=6,300万台
2030年には2013年比で5%増加ということで、米国と同じ仮定台数となる。
出典☛自動車販売台数速報 日本2014年-2020年@MarkLines のデータからグラフ化
出典☛自動車検査登録情報協会ホームページのデータから作成
目標平均CO2=180➡120g/㎞@2030年、主要大国で最も厳しい!
さて、3)の2013年に保有するクルマの平均燃費を算出する。これには国交省のホームページからデータを適用した。付図1に示したように、2002年~2013年の12年間における平均値をガソリン車(GV)、軽自動車(2種の重量車)についてグラフより求めた。10-15モード値であるため、JC08モード変換⁴⁾、実燃費変換⁵⁾をして、それぞれの平均実燃費を求めた結果を付図1に示した:
❏ガソリン車の実燃費=11.6(㎞/L)
❏軽自動車の実燃費=14.5(㎞/L)
2013年時点で保有6,000万台中、乗用車が4,000万台、軽自動車が2,000万台と考えた。また2013年には既にHVが市場で走っており、そのほとんどがプリウスと考えていいので、実績データ7⁷⁾⁸⁾から200万台がプリウス⁹⁾、3,800万台が普通乗用車としましたHVの燃費¹⁰⁾は、
❏HV(プリウス)の実燃費=20.5(㎞/L)
以上のデータから平均燃費@2013年は、次のように算出される:
❏平均燃費@2013年={GV×台数+軽自×台数+HV×台数}/6000万台
={11.6×3800+20.5×200+14.5×2000}/6000=12.86≒12.9(㎞/L)
したがって平均CO2@2013年は、
❏平均CO2@2013年=2320/12.9=179.8≒180(g/㎞)
2013年比で30%削減するとして、2030年に保有するクルマの目標平均CO2は、
❏目標平均CO2@2030年=(1-0.30)✖180✖6000/6300=120(g/㎞)
したがって、図19に示すように、日本では2013年6,000万台のクルマが持つ、平均CO2「180g/㎞」をベースにして、2030年の保有する6,300万台のクルマが持たなければならない平均CO2は「120g/㎞」となった。@2021.1.24記
《参考文献および専門用語の解説》
1)自検協☛自動車検査登録情報協会の略。そのホームページの1981~2018年のデータも用いて平均寿命を算出
2)平均寿命@2007年=11.66(乗)✖0.70+12.22(軽)✖0.30=11.8≒12年、
平均寿命@2008年=11.67(乗)✖0.70+12.47(軽)✖0.30=11.9≒12年
➡平均寿命@2013年=12年
3)平均寿命@2018年=13.24(乗)✖0.60+14.73(軽)✖0.40=13.8≒14年
➡2030年には16年になりそうだが、欧米と同じく15年とした。
4)JC08モード/10.15モード≒0.90@国交省ホームページデータ
5)e燃費情報から、2013年に保有するクルマの実燃費(e燃費)/JC08燃費≒0.75
6)例えば「統計データで確認!」新潟経済社会リサーチセンター@2019.9.19
7)「トヨタ ハイブリッド車 世界累計販売台数の推移(1997年~)」@High Charts Frequent(2016.5.21)
8)「EV等保有台数統計」@次世代自動車振興センターホームページ
9)実際には2013年にはHVは280万台となっているが、残りの80万台(インサイトなど)は3,800万台の普通乗用車の内数とした。
出典☛「ガソリン乗用車の10・15モード燃費平均」自動車燃費一覧@国交省ホームページ
2016-2030年の平均シェアはHV33%、軽自37%、GV30%!
2030年の保有台数は、寿命15年として2016年から2030年まで年間420万台の新車が販売されるとして、6,300万台とした。図20にHV、軽自動車の全体販売台数に対するシェアの推移を示した。HVシェアは2016年25%から毎年1%シェアを広げて、2019年には28%まで伸びた。日本のHVシェアをこのまま伸び続けて、2030年には40%程度まで拡がっていると予想される。軽自動車はHVに押されながらも、35%~40%台をキープしている状況にある。そこで、2016年~2030年の平均的なシェアを下記のように仮定した:
❏HVシェア➡33%、軽自動車➡37%、ガソリン車➡30%@2016-2030年の平均値
出典☛「次世代自動車の国内販売台数の推移」@JAMA のデータよりグラフ化
出典☛「e燃費アワード」@株式会社イード のデータよりグラフ化
HV・軽自動車中心の延長路線では30%低減は難しい!
先ずは現状の延長路線でHV化によりCO2削減を進めたCASE-1の場合:
各クルマのCO2は
❏HV=2320/22.5=103.1≒103(g/㎞)
❏軽自=232019.4=119.5≒119(g/㎞)
❏GV=2320/16.5=140.6≒140(g/㎞)
2016年~2030年の平均CO2は各クルマの平均シェアから、
❏平均CO2@2016-2030年
={103✖0.33+119✖0.37+140✖0.30}✖1.05=120.0✖1.05=126(g/㎞)>120(g/㎞)
このCASEでは1台の平均CO2は120(g/㎞)とズバリ目標値となるが、総台数が5%増加するため126(g/㎞)となり、目標値に達しない。
2030年EV化率10%は必要!
次にEV化を2016-2030年平均で5%、2030年には10%進めたCASE-2の場合:
❏平均CO2@2016-2030年
={103✖0.33+119✖0.37+140✖0.25}✖1.05=120.0✖1.05=118(g/㎞)<120(g/㎞)
となる。したがって、欧米のような20%(PHV含む)を超えるEV化率は必要ないが、少なくとも半分の10%は必須である。そうでなければ、年間の販売台数を400万台以下に抑えて、2030年保有台数を6,000万台にするしか手段はない。ただし、気になるのはCASE-1のままでは一体CO2の削減率は、どの程度になるのであろうか?CASE-3として検討した:
❏CO2削減割合=1-126/180✖1.05=0.265
つまり、約定削減率を30➡26.5%とすれば、CASE-1でも約定を順守できる。事実、日本政府は全体で26%、運輸部門で27.6%目標を2020年3月に再提出している。どうも、欧米諸国と同じく、現在の延長路線で達成可能な目標値を日本も提出しているようだ。@2021.1.26記
《参考文献および専門用語の解説》
1)e燃費☛自動車の燃料管理・情報コミュニティ・サイト、及び関連ソフトウェアによるサービス。株式会社イードが運営する。全国60万人のユーザーから寄せられるデータを共有・比較分析などすることにより、車種別実用燃費データやガソリン価格の情報を得たり、エンジンオイルなどの消耗品の交換時期を管理したりできる。実燃費を把握するには最適。サイトは2000年6月に開設され、14年月現在、月間ページビューは約300万、月間燃料入力数は7~8万件(2014-1-29)@知恵蔵miniの解説
中国のCO2削減は技術課題ではない!
第2章では、欧州、米国、中国、そして日本におけるクルマの排出CO2を2030年までに2013年比で30%削減するには、どうすればいいのかを話してきた。2016年世界各国における温室効果ガス排出量の割合を図22に示した。インド、ロシアなどシェアが5%を超える国々が残っているが、先に述べた4つの地域は世界全体の49.5%のシェアを占めている。
これらの地域でクルマのCO2量を30%削減するには、初めから分かっていたことではあるが、EV化率を上げることが重要な課題の一つである。ただし、それだけではなく、地域毎に特徴的な課題も残されている。簡単にまとめると、
❏欧州@EC27ヶ国☛
これまでの燃費改善努力もあり、諸外国の中では最もCO2削減に力を入れてきた地域である。ただし、2015年のディーゼル不正問題からディーゼル化率が60%以上あったのに、年々の低下で2019年には30%と半分になってしまった。これによりクルマ全体のCO2排出量が2015年から徐々に上がり、2021年95g/㎞規制を前にして2019年にはここ5,6年で最大値を示している。
これに対して、2030年EV化率5%、HV化率10%、電動化率75%ではCO2削減率は25%に何とか届く状態だ。30%低減するには2030年EV化率20%、HV化率20%、電動化率100%に上げる必要がある。
❏米国☛
先進国の中では中国に次いでCO2削減努力が低い国である。シェール革命の恩恵を受けながら、EPA報告では燃費低減を徐々?に実施していると思われる。だが、一方ではSUV・ピックアップトラックのシェアが2019年には70%を超える状況で、国内外のエンジンメーカーも利益率の高いSUVに貢献している。当然トヨタ社も例外ではない。
現状の電動化の延長路線では2030年にCO2削減率は17.9%程度で、さらに天下の宝刀であるZEV規制を全米の11州に施行しても、21.5%に留まる。これを全米50州に施行すれば、削減率は30%に到達する。国内事情は色々となると思われるが、CO2排出国第2位の汚名を返上するため、是非ともZEV規制を全米で施行してもらいたいものである。
❏中国☛
何と言っても、世界の温暖化ガス排出量の25%@2016年を占める国、そして2018年人口14億人となった国、2016年からSUV化率を50%以上維持している国、ただし一人当たりのCO2排出量が2017年第6位(日本第4位)の国、ということで特徴を上げたらきりがない。それだけCO2削減が難しい国なのである。しかし、何としても中国政府総力を挙げて、コロナ禍対策と同様に努力してもらわなければ、100年後、いや50年後に地球は温帯地域が亜熱帯に変わり、人間の住むところが激減してしまう、そんな状況だ。
ZEV規制とは異なる意味のNEV規制を大幅に見直し、EV化率を2030年までに20%にしても、CO2削減どころか、2013年比で1.2倍に増加してしまう。EV化率を50%に上げてもCO2量は現状維持のままである。一番の問題は、新車販売台数を平年よりも少なめの2,200万台の減少させても、2030年保有台数が3.3億台と2014年の2.3倍になってしまうことだ。要するに、EV化率を上げるレベルで何とかなる問題ではない!ということだ。中国政府は是非ともEV化率を上げるとともに、公共機関の拡充、シェアリングなどで保有台数の増加率を大幅に減少させてもらいたいものだ。
❏日本☛
世界の先進国の中でクルマCO2削減に最も貢献してきた国だと自画自賛した。これまで関与した方々に敬意を表したい。一番の要因は、燃費効率向上を顧客満足度を上げる最優先事項としてクルマ開発を進めてきたことだろう。お蔭でHV化率・軽自動車化率を合わせて2019年では65%を超えるようになって来た。SUV化率が50-70%を超えるようになって来た欧米中諸国とは全く違う方向、CO2を全体で大幅に下げる方向に進んできた。
そのお蔭で保有台数6,000万台を維持すれば、EV化無くとも現状の軽自動車シェア、HV化率を2019年28%から2030年40%に引き上げることで、2030年のCO2削減率は30%に達する。人口減少、高齢化が進む中、保有台数の現状維持は難しい問題ではないと思われる。ただし、欧州同様、保有台数を5%増加させた場合は、2030年のEV化率は10%まで広めなければならない。2017~19年時点でEV・PHV化率は1%弱であるため、今後毎年1%上げなければならない。いくらCO2削減目標は達しているとはいえ、2030年EV化率10%を達成しなければ、世界の潮流に乗り遅れた今の米国(Tesla社は別)のようになってしまう。日本のメーカーの方々には是非とも期待したい。
出典☛「今さら聞けないパリ協定」経産省エネルギー庁ホームページ
@2017.8.17 より加筆
未だパリ協定の約定目標は、現状路線の延長上!
以上、各国・地域についてまとめてみた。今回の簡単な計算で、現状路線の延長でCO2削減を行えば、図23に示した日本、米国、欧州におけるパリ協定の約定目標に非常に近い値になったことも分かった:
❏日本:約定目標26%⇔予想26.5%
❏米国:約定目標18~21%⇔予想17.9~21.5%
❏欧州:約定目標24%⇔予想25.0%
したがって、先進国でさえ2020年に提出した2030年目標はあくまで現状維持路線で、「何とかして地球温暖化を食い止めよう!」というものではないのだ。
出典☛「今さら聞けないパリ協定」経産省エネルギー庁ホームページ
@2017.8.17 より加筆
第1章の冒頭で触れたように、「パリ協定には法的な縛りが全くない」ということで、「世界各国・地域の倫理的道徳心」に負うところが大きい。話が別だが、日本のコロナ禍の対策のようなものだ。図24にCO2量の増減傾向とパリ協定の意味を示している。CO2の排出量の半分以上を占める先進諸国が、さらなる追加対策を積極的に追加していかなければ、図中の予想直線(赤線)のようにCO2は増加してしまう。そして、目標の2℃とは全く別次元で、2030年現状予想温度3℃になり、2100年には5℃を超える温度となってしまうことが大いに懸念される。
暗い話ばかりになってしまったが、各国の規制強化はしっかり行って頂くとして、クルマのCO2を削減するには「EV化に賭けるしかないのか?」ということを、この後の章で議論していきたいと思う。@2021.1.27記
出典☛「World Outlook 2016」@IEA から加筆