100年前、EVはガソリン車に負けた!
さて、少々クルマの歴史に触れてみよう。意外かもしれないが、歴史的にはEVが先行して後からガソリン車が追いかける形を取った。構造的には簡単なせいか、1899年には100㎞/hのスポーツカーを当時のベイカー社@米国が発売している。1900年のパリ万博には、インホイールモータ車(時速50㎞、走行距離50㎞)を出展している。
だが、図1に示したように時代は大きく動く。1908年に世界を席巻した「T型フォード」の出現で事態は一変してしまった。一般大衆車としてのクルマでは、ガソリン車はEVに対して、価格、速度、乗車人数で明らかに大きく優位に立った。そして、それ以降はEVは決して注目されることはなかった。20世紀では一部のプレミアムカー、中国の安価EVを除いて、その評価は変わっていない。21世紀に入ってEVはCO2を大きく低減する手段として注目され、やっと一般大衆車としてのEV化の道を歩み始めたばかりである。
出典☛「電気自動車が一番わかる」石川憲二@技術評論社 より加筆
世界のどの地域においても一般大衆車向けとして、ガソリン車がEVに対して圧倒的に優位に立ってきたことは、100年を経た今でも変わらない。ただし、ここに来て地球温暖化論争、CO2削減ということに対しては、ガソリン車は苦境な立場に追い込まれている。第2章の冒頭でWell-to-Wheel効率ηTについて触れた。EVとエンジン車を効率、CO2低減という観点だけで比較したのが、図2に示した結果である。効率ηTだけで比較すれば、エンジン車に比べてEVの効率の方が明かに2~3倍高いクルマと言える。
効率、CO2低減だけで議論するならば、EVの残された課題は発電時のCO2を下げることであり、エンジン車の方はエンジン効率を上げることになる。
出典☛「電気自動車が一番わかる」石川憲二@技術評論社 より加筆
正味熱効率を向上させた技術をHVに世界展開!
第2章の冒頭でTank-to-Wheelの世界でCO2を下げるには、正味熱効率ηeをできるだけ上げることが非常に大きな意味を持つことは既に述べてきた。そのため。世界のエンジン技術者は正味熱効率を如何にして向上するかに努力してきた。図3には最近の正味熱効率向上の経緯を示した。1990年頃では最大熱効率が30%であったのが、2016年になると最大熱効率が40%にまで向上してきている。さらに、エンジン技術者、エンジン研究者はさらに上を目指している。前編の第5話でも触れたが、エンジン理論熱効率ηthは究極の超希薄燃焼である空気サイクルの理論熱効率ηthを当然超えることはできない。圧縮比14の場合、空気サイクルηthは0.60が限界となる。燃料空気サイクルではηthは0.50程度が限界となり、損失仕事をゼロに近くしても正味熱効率は50%程度が限界なのである。したがって、国家プロジェクトであるSIPエンジンでの研究で51.5%が得られたのは立派というほかない。研究を続けておられる研究者の方々には敬意を表する。
それでもSIPエンジンではたった1点での評価結果である。正味熱効率効率30➡50%になれば、トータルの効率ηTは35%になり、この時点でやっとEVレベルに追いつく。ただし、EVも課題である発電CO2を火力から再生エネルギーに変更することによって、発電効率40~50%に対して、90%程度に向上させることが予想される。効率、CO2削減ということに関して言えば、エンジン車はEVに追いついても、また大きく離されていくようである。
さらに、SIPエンジンは可能性を示しただけで、実用化エンジンを開発したわけではない。コストを考慮して広範囲の効率を50%近くまで向上させるのは、未だ難しい。マツダ社がコストをかけて過給ディーゼルエンジンと思われるような、ガソリンNAエンジンを開発したが、熱効率は43%程度と言われている。
エンジンの素人が言うのもおこがましいが、これ以上お金をかけて、エンジン効率向上に執着するのは無意味ではないかと思うのだが?日本の場合、消費者はHVと軽自動車があれば、さほど燃費向上を望んでいない。熱効率向上はエンジン技術者がいつしかエンジン技術者の意地で行っている技術開発のような気がする。高効率エンジンの開発が無意味とは言っていない。EV三悪が徐々に解決されるまで、これまで培ってきた40%まで引き上げたエンジン熱効率向上技術を十分生かすHV技術の展開も忘れてはならない。さらにEV技術の進化と共に、HV技術にもさらに磨きをかけた方が日本としては賢明であると言っているのである。2020年~2030年頃まではEVは現行LiBで発展途上であるし、ガソリン車は熱効率が40%程度で止まっている。エンジンにこれ以上お金をかけても消費者メリット、CO2低減メリットは小さい。一時はHVは日本でガラパゴス化された自動車技術と言われてきたが、今では消費者に受け入れられて欧州、そして中国に大きく展開されつつある。2030-40年までにガソリン車撤廃の動きがある中、そしてEV三悪が大幅に改善されるまでの過渡期にHVが世界に展開されることは消費者にとっても地球温暖化減速にとっても非常に良いこと考えている。@2021.2.4記、2021.2.28修正
出典☛日経Automotive(2016年7月号)@日経BP社