「今日からは100年以上愛されてきたガソリン乗用車(GV) 、ディーゼル乗用車(DV)が今世紀に入り、有害排気ガス問題、地球温暖化問題などで、残念ながら次第に社会に受け入れがたい状態に入ってきたことを順に話していこう。
まず地球温暖化成分であるCO2は、一体ガソリンエンジンからどの程度排出されるのか、考えるとしよう!それにはガソリン燃料の化学反応について説明が必要だ。この化学反応はエンジンから排出されるCO2排出量と大いに関係している。
まず、ガソリン燃料成分について説明するとしようか?一口にガソリンと言っても実は複雑な成分の集合体だ。ガソリンでどんな成分を知っている?」
「確か、オクタン価のオクタンが成分の一つだということは知っているけれど・・・?」
「そうだね。オクタンは”C8H18”で表されるガソリンの代表成分だ。軽油と同じく原油から35~180℃で蒸留されたのがガソリン、240~350℃で蒸留されたのが軽油ということだ。炭化水素の化合物でC2nH2n+2で表される燃料が50%程度占めている。残りの50%は
CnH2n・・・に代表されるように水素成分Hが少ない。燃料成分CnH2n+2、CnH2n、・・・などから、実際のガソリン重量組成は、Cの割合=85.6(%)、Hの割合=14.4(%)という結果になっている¹⁾。重量比としては炭素Cの割合が多くなるね。ガソリンは常温では気体燃料であり、ペンタンC5H12からウンデカンC11H24までの集合体で、その代表成分がオクタンC8H18となる。」
「一口、ガソリン燃料と言っても、複雑なんだね。」
「そうだね。そこで代表成分のオクタンが完全燃焼、つまり理論空燃比²⁾で燃焼したとすると、その化学反応式は、次のようになる:
❏ガソリン燃焼☛C8H18+12.5・O2=8・CO2+9・H2O+[熱エネルギー]
この反応式で重要なことは、燃料の組成である炭素CとHが空気中の酸素と完全燃焼さえすれば、二酸化炭素CO2と水蒸気H2Oだけが排出され、非常にクリーンであるはずである。そしてガソリン燃焼の目的である“熱エネルギー”を得ることができる。ただし、温暖化成分であるCO2も大量に空気中に放出される。これはディーゼル燃焼でも同じで低温で完全燃焼さえすればCO2とH2Oしか排出されない。ただ、炭化水素燃料の燃焼ではCO2の大量排出は、どうしても避けられない宿命のようなものだね。」
「もともとガソリン燃焼もディーゼル燃焼もクリーンな燃焼なんだ。」
「そうだね。ところが、実際にそうなっていない。ガソリン燃焼に絞って話を進めるね。理由はシリンダーに吸入された混合気を微視的に観察すると、気化したガソリン燃料と空気が一様に混ざっていない。局所的には空燃比A/F²⁾にばらつきがあり、化学反応式で示した理論空燃比での燃焼になっていない。また完全燃焼時には燃焼温度が非常に高くなり、そのためNOxを大量に排出してしまう。
図2-1に実際のガソリンエンジンにおいて、排気バルブ直後で計測した有害排気ガスの排出量例³⁾を示した:
➊一酸化炭素CO:
過濃混合気による不完全燃焼により発生
➋炭化水素HC:
過濃混合気による未燃成分、燃焼室壁面付近の燃え残りガス成分
➌窒素酸化物NOx:
燃焼温度が高い時に、空気中の窒素が酸素と結合して発生
したがって、理論混合比14.7のガソリン混合気が燃焼したとしても、CO2、H2O以外にもCO、HC、NOxが発生してしまう。」
「図中のλって何だっけ?」
「λ(ラムダ)は空気過剰率のことで、ディーゼル燃焼の分野では空燃比の代わりによく使う専門用語だね。これは理論空燃比と比べてどれだけ混合気の空気が過剰なのかを表していて、次式で定義される:
❏空気過剰率λ=実際の混合気の空燃比/理論空燃比
したがって、λ>1は希薄(リーン)燃焼、λ=1は理論空燃比燃焼、λ<1は過濃(リッチ)燃焼というわけだ。ちなみに、λの逆数、1/λは当量比と言ってΦ(ファイ)で表され、これはガソリン燃焼、ディーゼル燃焼共に使われている。
さて、話を戻そう。理論空燃比燃焼でも有害成分CO、HC、NOxが排出されることは分かてくれたと思うけれど、ここでは地球温暖化成分であるCO2がどれほど多く排出されてしまうのか、計算してみよう。実は、完全燃焼させたとしても化学反応式から計算すると、燃料114㎏に対して3倍に相当する352㎏のCO2を発生してしまうのだ。」
「そうか。有害成分はたとえ燃焼の改善と触媒でかなり削減できたとしても、最後には投入した燃料重量の3倍ものCO2が排出されてしまうのか?燃料重量の3倍って凄いよね。」
「その通りだね。だから、CO2の排出量を抑えるには、燃費を向上してどれだけ燃焼させる燃料を減らすかなんだ。だから、地球温暖化に対して燃費向上は非常に重要な、大きな課題なんだよ。」
ということで、先ずは小休憩を取ることにした。2018.12.7記、2019.7.21修正
《参考文献および専門用語の解説》
1)「内燃機関講義(上巻)」長尾不二夫@養賢堂版;p166
2)理論空燃比☛空燃比とは空気質量(㎏)を炭化水素等の燃料質量(㎏)で割った無次元量。
A/F(エーバイエフ)と略される。理論空燃比とは燃料成分CnH2n+2、CnH2n、・・・などから、実際の重量割合、Cの割合=85.6(%)、Hの割合=14.4(%)を基に計算された完全燃焼時のA/F=14.7を呼ぶことが多い。
3)「空燃比と排ガス」自動車工学2004年7月号
出典☛「空燃比と排ガス」自動車工学2004年7月号 より加筆