「さて、今日は理論熱効率ηthについて話をしよう。図1-3のP-V線図に示された仕事(図示仕事)ではなく、損失仕事WLを取り除いた理論仕事の熱効率のことだ。理論仕事は理論サイクル(オットーサイクル)から熱力学の諸式により次式で求められる⁸⁾:
ηth=1ーQ2/Q1=1ー1/ε⁽κ⁻¹⁾
ここで、εは圧縮比だったよね。そしてκ(カッパ)は比熱比⁹⁾と呼ばれる物性値を表している。空気のκは1.40、ガソリン混合気のκはガソリン濃度・温度などによって異なるけれど、1.2~1.3程度の値となる。上式の第2項目の分母は圧縮比εの(κ-1)乗という少々訳のわからない表し方であるが、熱力学の基本式を学ぶと熱量Q1、Q2の算出でき、上式を求めることが出来る。」
「理論熱効率の式はもっと複雑になるかと思ったけれど、形としては綺麗な数式だね。」
「この式の計算結果を曲線で表した結果が図1-3の曲線群だ。図中の空気サイクルとは空気成分だけの理論機関のサイクルで実在せず、比熱比κは1.40である。実際の混合気は、燃料空気サイクルと言われて、比熱比κは絶対温度1,600Kで1.26程度となる。」
「なるほど。圧縮比εが大きい程、理論熱効率ηthは大きくなる。また比熱比κが空気のκ=1.4に近づくと、やはり理論熱効率ηthは増加していくんだね。でもκが1.4に近づくってどういうことかな?」
「分かりにくいね。つまり、空気サイクルに近づくということで、混合気が薄くなるということだ。具体的に理論熱効率ηthを計算してみよう!先ず圧縮比εの値は、ノンターボエンジンで2012年頃の平均値が10.5程度。高圧縮比を好むマツダ社は14という高圧縮比を実現している。そこで、圧縮比ε=10、14とし比熱比κ=1.26、1.40という値を用いて計算をしてみた。その計算結果を図中に示してみた。
空気サイクルではε=10、14でηth=0.60、0.65であるのに対して、燃料空気サイクルではηth=0.45、0.50と熱効率はかなり落ちるんだ。でもこの値は理論熱効率なので、損失仕事、機械摩擦仕事が加わるとさらに下がることになる。よく熱効率40%達成という記事を見かけるけど、実は大変なことだということが分かるね。
またこの図1-3から、さらにいくつかのことが分かって来る:
① 圧縮比ε、比熱比κが大きいほど理論熱効率が良くなる。このことは過剰空気で燃焼するディーゼル燃焼が理論空燃比¹⁰⁾で燃焼するガソリン燃焼よりも熱効率が高いという理由なんだ。
② 理論空燃比でのκ=1.26に対して、圭くんの最近覚えた“超希薄燃焼”の場合、空気が2倍程の希薄混合気だから比熱比も空気に近づき、κ=1.26➡1.3程度になる。したがって、ディーゼル燃焼に近づくという意味では理論熱効率ηthが上がることになる。」
「なるほどね。理論熱効率でこれだけの説明ができるんだ。」
「今日はこのくらいにして、明日は“図示熱効率”、“正味熱効率”の話しに入ろう!最後の方で、正味燃料消費率MAPについても触れたいと思っている。これは、“ハイブリッド車(HV)”の核になる重要な知識だ。明日は長くなるから、今日はゆっくり休んでね。」
「了解。自分の部屋に戻って、今日話してもらった理論熱効率の話をまとめておくよ。」
夕方になっても、全く涼しい風も吹かない。まだまだ暑い日続くようだ。@2018.12.6記 2019.7.18修正
《参考文献および専門用語の解説》
8)たとえば「自動車用ガソリンエンジン」中島泰夫@山海堂;P15-16
9)比熱比☛物体の温度を1度上げるのに必要な熱量を”熱容量”といい、物体1grの熱容量を”比熱”と呼ぶ。気体の場合、体積を一定にした等容変化の比熱を”定積比熱Cv”といい、圧力を一定した定圧変化の比熱を”定圧比熱Cp"という。そして、CpとCvの比を”比熱比κ”と呼び、κ=Cp/Cvで表される。
10)理論空燃比☛完全燃焼に必要とする空気量と燃料との重量比のこと。ガソリン燃焼は14.7、つまり燃料1㎏に対して空気14.7kgを供給すると化学的には完全燃焼する。ちなみにディーゼル燃焼の理論空燃比は14.3程度となる。
出典➡「自動車用ガソリンエンジン」中島泰夫@山海堂;p15-16 より加筆