いかがでしたか?ここで中締めとして前編をまとめてみたいと思います。
第1章ではこのクルマ談義に必要な熱効率、燃料消費率に至るまでの基礎的な話をしました。あまりに基礎的であるため、この章で読むのが嫌になった方も多いでしょう。しかし、この章で紹介される知識はこの後の展開を理解するにはどうしても必要だったため、あえて取り上げました。ぜひ読んでほしいと願っています。もしこうしてもらえば読みやすいなどの助言があれば、ぜひHPへご意見を頂ければと思っております。
第2章では燃焼の化学反応式からスタートして、ガソリンエンジンの理論空燃比制御、ダウンサイジングコンセプト、超希薄燃焼技術、さらにはクリーンディーゼルの挫折までを説明しました。ガソリンエンジンは燃費規制で、ディーゼルエンジンは排気ガス規制・価格で、次第に今の先進諸国には合わなくなってきたことを理解してもらおう思いました。決して急にGV、DVが消えるということを述べたのではありません。
第3章では日本で生まれたHV技術について、燃費という断面で説明しました。HVの燃費が如何に良く、GVでは達成することが難しいことを理解してもらいたいと思っています。図3-8に示したTank-to-Wheel効率と実燃費の比較表は、第1章から第3章までの燃費に関する集大成でこの情報が後編で生かされることになります。
純くんがハカセに投げかけた10の疑問点については、第1番目から第5番目まで前編で回答したことになっています。もう一度、復習しましょう:
➊ディーゼル乗用車は、ガソリン乗用車よりも何故燃費がいいのか?
☛1)圧縮比εはノッキングの懸念がないので高く設定できる
2)空気過剰であるため、比熱比κが空気に近くなり高くなる
3)空気過剰であるため、動作ガスが多く比熱が高いため、冷却損失WL1が下がる
4)吸気スロットルがないため、ポンプ損失仕事WL4が下がる
大きく以上の4点からディーゼルエンジンは、正味熱効率ηeがガソリンエンジンよりも大きくなり、燃費がいいエンジンということになる。
➋ガソリンのダウンサイジングターボは、何故広まらなかったのか?
☛日本と欧州の運転パターンにより過渡・高速でのエンジン正味熱効率ηeが上がらず、低中速域の通常走行での燃費の良さが相殺されてしまう結果となった。そのため、めんどくさいエンジンとして消費者から敬遠されていったというのが真相のようだ。
➌ガソリンの超希薄燃焼技術で何故燃費が良くなるのか?
☛ディーゼルエンジンの利点・欠点と同じ方向。また、エンジンコストを含めた費用対効果という点で、実用化に対してエンジンメーカーには非常に難しい状況だと思う。
➍何故VW社は排気ガス不正問題を起こしたのか?
☛技術的な話に絞ると、複雑な後処理を必要とするクリーンディーゼルは、信頼性、価格でHVに負けていることを自覚していなかった、日本人の発明品に屈したくなかった、そして無理をしたということだと思う。
➎ガソリンハイブリッド車(HV)は、何故日本市場にしか広まらないのか?
☛モータートルクの特性上、低中速域の燃費改善に有効であるため、日本市場には高燃費、米国市場では環境車ということで受け入れられた。さらには、未だ従来のクルマと比較して一般消費者にはEVの利点が感じられないため、欧州市場、中国市場でもHVが拡がりつつある。EVの進化速度によるが、2030年まではHVはGV、DVに代わる大きな柱になっていく。
以上が各章での回答概要でした。
後半のEV編では、2020年世界を襲ったコロナ禍の中で、クルマのCO2削減がどのような方向に向かうのか、探ってみたいと思います。また、クルマのCO2量の評価もTank-to-WheelからWell-to-Wheel、そしてLCAへの2030年に向かって変わろうとしています。2020年の時点で主要地域のCO2量どうであったかを予想して、2030年に向かうべきクルマの在り方を話していきたいと思っております。@2020.12.20