翌日の朝食後、早速談義は開始された。
「さて、今日は昨日の続きで、EV化による消費者メリットについて話を進めよう。
昨日はGVに必要なガソリンスタンドが特に過疎地の市町村でゾロに近い状態であることに触れた。もしもEVが軽自動車並みの価格で400㎞以上走行できるならば、家庭の電源で充電できる。実は発電CO2を低減できる手法として導入されている再生エネルギー発電によれば、電気代を従来よりも1/4~1/2に出来、単位走行距離に対するエネルギーの負担が軽くなるという話だ。」
「再エネ発電は発電時発生するCO2を低減する手段だと思っていたけれど、電気代も安くなるとは知らなかったよ。」
「では発電CO2低減の話から進めようか。電力中央研究所の2010年評価結果¹⁰⁾に基づいて、図6-7に各発電方法によるCO2発生量(gr/kWh)を棒グラフで示した。また、政府が提出した2030年パリ協定の“エネルギー転換部門の27.7%”に対する各発電方法の目標値も右表に示した。まず、“各発電方法によるCO2発生量”を下記のグループにまとめて平均値を計算すると次のようになる:
➊石炭火力=943(gr/kWh)、➋石油火力=738(gr/kWh)、➌LNG火力=(599+474)/2=540(gr/kWh)、➍原子力=20(gr/kWh)
➎再生エネ=(太陽光+風力+地熱+水力)/4=22(gr/kWh)」
「やはり、原発のCO2は石炭火力の約1/50、LPG火力の約1/30と非常に少ないね。地震国日本ではもう原発は使えないね。でも再エネ発電は原発と同じCO2レベルなんだ。だから再エネ発電というのか?」
「そこで、日本政府はパリ協定を順守するために、火力発電を抑えて原発の再稼働、再生(可能)エネルギーによる発電の割合を2013年度比で増加させる目標値を掲げた:
➊石炭火力:31.0➡26%、➋石油火力:10.6➡3%、➌LNG火力:46.1➡27%、➍原子力:0.1➡22%、➎再生エネルギー:12.2➡22%」
「結局は原発再稼働となるんだね。」
「政治的な話はわからないけれど、一度再稼働させて徐々に廃棄させていくんだろうね。この目標値から、1kWh当たりの平均的なCO2発生量は加重平均を取ると、2013年と2030年で次のように計算される:
➊発電CO2(2013年)=943×0.31+738×0.106+540×0.461+20×0.001+22×0.122
=622.2≒620(gr/kWh)
➋発電CO2(2030年)=943×0.26+738×0.03+540×0.27+20×0.22+22×0.22
=422.3≒420(gr/kWh)
つまり、政府は2013年平均発電CO2が620(gr/kWh)であったのに対して、2030年には420(gr/kWh)と30%強減少させる目標値を掲げたのである。パリ協定のエネルギー変換部門の削減目標値は、“27.7%”であるから、誰もが納得する数値目標と言えるだろう。ただ、具体的な手段として注目点が2点ほどある:
第1の注目点は、安全性をどう確認して原発の再稼働を行うのかということであり、これは厳正な原子力規制委員会に判断をお任せするしかないだろうね。
第2の再生可能エネルギー、略して“再エネ”は、一般には“太陽光、水力、風力、地熱、バイオマスなど多くの自然界で利用できるエネルギーにより発電して得られる電力のこと”を指している。世界では地域によって異なるが、太陽光、風力、バイオマス、水力と言ったところが主力の発電方法となっている。日本では太陽光、水力発電が主力となるが、欧州では風力発電に負うところが大きい。再生エネルギーの問題点の一つは、自然界のエネルギーであることから、天候により発電量が変動してしまうということだね¹¹⁾。
ここで、注目すべきは太陽光発電のコストなんだ。この発電によるCO2発生量は図6-7によれば、38(gr/kWh)と現在の主力LNG火力発電の1/14と非常に小さい。さらに発電コストについては、政府からの目標値¹²⁾が既にある。事業用(非住宅用)で2020年には2010年の30円/kWhから半分弱に相当する14円/kWhに、そして2030年にはその半分の7円/kWhに下げるという長期目標も示した。14円/kWhは企業向けの現在の電気料金と同じ水準であり、7円/kWhにもなれば原子力・石炭火力よりも発電コストは安くなる。通常私たちの電気代が25~35円/kWhであることを考えると、1/5~1/4の価格だね。実際に住宅用にはどう設定するのか、未だ未定だけれどね。」
「でも安いね。実際のクルマに適用すると、どうなるのかな?」
「例えば、2030年に太陽光発電により住宅用の電気代が企業向けの2倍に設定されて、電気料金14円/kWhとする。30kWhで電気代は14×30=420円、実CD距離は171km(リーフのEPA換算値)、つまり電費は420/171≒2.4円/kmとなる。ただし、現在の電気代でも30円/kWh×30kWh/171km≒5.2円/kmとなる。
一方、ガソリン代は最近また上がってきているが、135円/Lとする。燃費はGV40=16km/L、HV40=21km/Lであるから、電費に相当する燃費は、燃費(GV40)=135/16≒8.4円/km、燃費(HV40)=135/21≒6.4円/kmとなる。現状の電気代でもGVは2割、HVでは4割安くなる。」
「CO2低減も重要なことだけれど、消費者を動かすにはエネルギー代だね。このEVの電気代は消費者には非常に大きなメリットとなると思うよ。」
「既に米国では太陽光発電のコストは2013年で11.2セント(11.9円)/kWhであり、2020年には6セント(6.4円)/kWhの目標に向かって下がっているとのことである。これだけみると、日本は太陽光発電で米国に10年以上は遅れている感じがする。先日TVで元米副大統領のゴア氏が“米国では原発よりも太陽光発電による電力の方が安い。日本も早く追いついて、火力・原発を減らしてほしい。そして、東南アジア諸国への石炭火力発電の協力をできるだけ早く辞めて、太陽光発電を含めた再生エネ発電の普及に努めてほしい”とのコメントを聞いた。日本の再生エネ技術が遅れていることを恥ずかしながら、この時初めて知った次第だ。
日本は東日本大震災という未曽有の大災害を受けた国なのである。無理せず、ただし確実に原発再稼働しながらも、再エネ発電を国の力で目標値22%などは早く突破して、2030年にはさらにその上を目指してほしい。そして原発による発電を終わらせてほしい。そして、CO2の平均発生量22(gr/kWh)の再エネ発電を日本の発電の大きな柱にして、CO2発生量と同時に低減できるはずの電力コストによって、クルマの消費者から維持費が安いからEVにしよう!と言われるようにして頂きたいものだ。」
「EV化による消費者メリットのポテンシャルが高いことはよく分かったよ。結果的には9番目の疑問点である、EV化の課題についても理解できた。早く国が中心となって再エネ発電を進めてもらいたいね。」
「ところで、いよいよ純くんの10番目の質問にある、地球温暖化を減速するためにクルマはどこまでCO2を下げられるのか、下げるべきかについて、明日から話をしよう。」
いよいよ、明日からクルマ談義は最終段階を迎えることになる。@2019.11.12
《参考文献》
10)「原子力・エネルギー図面集(2015 2-1-9)」@電気事業連合会
11)「再生可能エネルギーの発電コストが下がり、買取制度から自家消費へ」
石田雅也@スマートジャパン(2017.01.05)
12)「太陽光発電コスト、20年に半減。政府が目標」@日経新聞(2013.7.31)